自動車運転過失致死傷罪の新設 解説 平成19年6月13日
 

6月12日から,自動車運転過失致死傷罪がスタートすることになります。
 刑法211条2項に自動車運転過失致死傷罪が定められます。自動車運転による人身事故は、この法律の適用となります。自動車による人身事故では、【業務上】の言葉がなくなります。従来の業過事故は刑法211条第1項で業務上過失致死傷罪がそのまま残り、飛行機事故や船舶事故、医療事故、労災事故が適用対象となります。自動車による人身事故は、刑法犯の多くを占める犯罪ですが、6月からは自動車事故の呼び方がこれまでの業務上過失致死傷罪から自動車運転過失致死傷罪となります。7年が上限です。

 自動車運転過失致死傷罪の新設の背景は、4人が亡くなった埼玉県川口市の園児死傷事故のように悪質な交通事故が多くなり、業務上過失致死傷の上限5年の判決が増えていることにあります。01年に危険運転致死傷罪(懲役20年以下)が新設されたが、適用条件が厳しく、05年の検挙者85万件の人身事故のうち適用例は279件に過ぎず、悪質運転への抑止力になっていません。川口の事故のように多くの死傷者を出し、5年の刑とされても遺族は納得できない。交通事故で家族全員の人生が破壊されることは多く、背後の被害を見たら5年はあまりに軽いのが実情です。
 また「自動車事故を独立させる」こととなりました。列車などと違い、自動車は運転者1人でコントロールしなければならず、高い注意義務が求められるからです。自動車運転は、飛行機や列車のように、システムによる運転抑止機能はなく、運転者だけに運転を委ねるしかないという完全な自己責任です。ところがわずかなミスによって発生する被害は、多数の人命を奪う可能性があります。自動車は危険な凶器であり、運転のコントロールが運転者だけに委ねられています。自動車運転致死傷罪を、業過致死傷罪から切り出して、特別立法をしなければならかったのです。キーワードは自己責任と危険な凶器です。
 今回の措置は注意を喚起して悪質事故を防止するためで過去に実績があります。1968年に業過致死傷罪の上限が3年から5年に引き上げられると、70年に99万人の交通事故の死傷者は77年に60万人に減る効果がありました。今回の引き上げも抑止力になります。
 すべての自動車事故が厳罰化されるわけでないし、起訴率の低さを考えると、事故の捜査手法が変わることはないでしょうが、ドライバーに厳しい責任を求める以上、事故原因の検証もきちんと行われるべきです。捜査の充実が望まれるし、また道路の危険個所などの見直しも進むはずです。ひいては交通政策全般の見直しも行われるよう期待したい。