重度後遺症被害者の裁判(33)
意識障害事件(植物状態と言われる)逸失利益の生活費控除の可否
平成19年3月20日
 

 損保側が意識障害事件で主張してくる争点に(生活費控除をすべき)とする生活費控除の問題があります。
 例えば、被害者が死亡した場合、生活費控除は30%〜50%されます。生きていれば、生活費の支出があるから、死亡では生きていたとして生活費控除をするわけですね。損保側の根拠は意識障害被害者は生活の実態がないから、死亡と同じ扱いをすべきだとするのが、主な理由です。
 損保の主張に沿うような生活費控除を認める判例もあり、必ず押さえておくべき争点の一つです。
 損保の主張は生活費を控除すべしというが、絶対に控除を認めるべきでありません。
 傷害の場合、後遺症逸失利益は、死亡の場合と異なり、生活費を控除しないのが原則である(赤本42p)。もともと生活費控除率は、逸失利益の計算においてなされる擬制であり、死亡の場合生活費を差引くのがあたり前だが、生存被害者の場合、生きている以上生活費を控除されるのはおかしい。もし、重度後遺症被害者のみが被害者の中で生活費控除されるとしたら明らかな差別であり許されない。それに生活費は必ずしも労働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく、生命維持のための費用を要することは明らかである。コンサートを聴く音楽運動療法や生命維持のため硬縮予防のためのマッサージ診療等はかなりの出費を要するが、続けるのが通常である。自宅療養中の費用の多くは逸失利益の中から支出されることが見込まれ、逸失利益の算定にあたり、生活費を控除するのは不当である。また意識障害の場合、急に症状が悪くなったりした時の入院や通院に伴なう費用や交通費や家族の負担など、出費が相当多額となることが日常的である。意識障害者の多くがリハビリマッサージをしないと生命維持機能に問題が生じるから拘縮予防のマッサージをする。リハビリが将来医療費とされない場合も多く、負担は家族となる。思わぬ高額の出費があることは健常者以上である。損害の公平な分担を理念とする不法行為法の理念に照らし、生活費控除は認めるべきでない。
 被害者が逸失利益の現実運用が毎年5%もの高利で出来るわけがないのに5%の高利運用ができると擬制し、不利益を原告に負担させ(中間利息5%控除論)、そのうえ、生活費控除までするのは被害者原告にあまりに酷すぎ、不公平である。損害の公平な分担を理念とする不法行為法理念に反する。
 植物状態に関する多くの判例は生活費控除を認めない。

★ 脳挫傷により植物状態となった20歳男子大学生につき、推定余命10年の被告主張を排し、22歳男子の推定余命を55.43年と認定し、22歳から67歳までの45年間、100%の労働能力喪失を認め、かつ生活費控除を認めなかった(東京地判平10.3.19 判タ969・226)
★ 症状固定時8歳の男子小学生につき、生存可能年数を相当範囲に限定すべきとの被告の主張を排し、18歳から67歳まで100%の労働能力喪失を認め、かつ生活費控除をしなかった(大阪地判平13.9.10 判時1800・68)』