ホフマン革命 A 平成18年11月22日
 
 二木雄策名誉教授の『交通死』によれば、ホフマンからライプニッツ係数へ判例が変化したのは、1967年4月19日東京地裁判決(2歳女児死亡)、68年1月13日東京地裁判決(33歳男性傷害)であった。
 これらの判決の理由『中間利息の控除方法として通常用いられるのはホフマンであるが、ホフマンは貨幣資本が単利法によって利殖されていることを前提とした控除法であるが、銀行の預金利子が複利で計算されている以上、ホフマンを用いる合理性は何もない。複利法を前提とするライプニッツ法を採用する』
 1971年5月の東京地裁判決も『現今貨幣資本はすべて複利で運用されているのが実態であるから、逸失利益の算定はライプニッツ方式による。』

 以降、かつてのホフマンはいつのまにかライプニッツが主流となった。貨幣が複利で運用されるという経済法則が根拠で、法律の根拠ではない。法律の世界ではなく、『何となく』 が理由だったのである。

 経済法則を徹底すると、当然貨幣の運用利率に眼が向けられる。中間利息非5%論の登場である。この立場をとる二木雄策教授は経済学者であるから説得力があった(実質金利論)。そして『中間利息控除率につき、機械的に5パーセントを採用するのは現在の長期に亙る低金利状態と余りに乖離する』と中間利息を2〜4%で算定する判例が次々に出た。
 例えば
@ 平成12年12月26日津地裁熊野支部判決『低金利時代が続き、近い将来、預金金利が5パーセントに達するのは困難で2%』
A 平成12年11月14日長野地裁判決「中間利息の控除は、将来受け取るべき金員を現在受け取ることによって、その受領した金員に将来の当該時点までの利息が生ずることにより、支払者に比較して受領者に有利になるという不公平を解消するためである。他方、民法で規定されている法定利率は、金銭消費貸借の不履行という面から定められているものであり、法定利率をもって中間利息を控除する際の割合とすることに格別合理的根拠なく3%」
B 平成12年3月22日、東京高裁判決が4%とした。
C 平成16年7月16日、札幌高裁が『経済成長と名目金利の差である実質金利が3%を超えないとして中間利息控除率を3%』とした(実質金利論)。

『中間利息控除利率論』の決着 最高裁判決
 しかしこの中間利息控除利率非5%論が地裁で数多く出て、次に高裁でも2件出るようになった頃、平成17年6月14日、最高裁はこれら非5%論判決を取らず、民事法定利率論=5%論をとり、利率論を決着させた。

H17年6月14の最高裁判決
 『損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならない』。理由『我が国では実際の金利が近時低い状況にあることや原審のいう実質金利の動向からすれば、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は民事法定利率である年5%より引き下げるべきであるとの主張も理解できないではない。しかし、民法404条において民事法定利率が年5%と定められたのは、民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率、我が国の一般的な貸付金利を踏まえ、金銭は、通常の利用方法によれば年5%の利息を生ずべきものと考えられたからである。そして、現行法は将来の請求権を現在価額に換算するに際し、法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には、法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば、民事執行法88条2項、破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様)、民事再生法87条1項1号、2号、会社更生法136条1項1号、2号等は、いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても、法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから、民法は、民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって、事案ごとに、また、裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ、被害者相互間の公平の確保、損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと、損害賠償額の算定に当たり、被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は、民事法定利率によらなければならないというべきである。これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。』と。

 中間利息控除利率は民法が定める法定利率との最高裁判決が平成17年6月14日に出て実務的には中間利息控除利率論の論争に終止符が打たれた。 

複利か単利か の決着
 しかし、複利か単利かの中間利息控除方式は決着が未だついていない。
 平成2年3月23日言渡し最高裁判決(判タ731・109)は、9歳男児の死亡逸失利益について、賃金センサスによる男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金を基礎収入としながら、ホフマン方式により算定した。判決は次の通り。
 『死亡した幼児の将来の得べかりし利益の喪失による損害賠償の額は、個々の事案に応じて適正に算定すべきものであるから、原審が、亡高橋洋介(本件事故当時九歳の男児)の将来の得べかりし利益の喪失による損害賠償の額につき、賃金センサスによる男子労働者の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金金額を基準として収入額を算定した上、ホフマン式計算法により事故当時の現在価額に換算したからといって、直ちに不合理な算定方法ということはできない。所論引用の最高裁昭和36年(オ)第413号、同39年6月24日第三小法廷判決・民集18巻5号874頁は、右のような算定方法を違法とする旨の判示まで含むものではないから、原判例に抵触するところはない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。』
 最高裁はホフマン方式を排除しておらず、9歳男児につき男子年齢平均年収を基礎年収とし、ホフマン方式を認めている。このやり方は非常に高額となるため、より低額であるべきとの損保側の批判を受けるほど画期的だった。

H17年8月9日福岡高裁判決『ホフマン採用』
 そしてホフマン式とライプニッツ式のどちらが合理性があるかについて結論を出した判例が、ついに出た。今日まで、ホフマンとライプニッツの法律上の根拠があいまいだったが、初めて民法が予定しているのはホフマンとされた。

福岡高裁
 福岡高等裁判所平成17年8月9日言い渡し判決(判例タイムズ1209号211p)は中間利息控除について単利ホフマンを採用した。
 『逸失利益の計算はホフマン方式を採用するのが民法の定めるところである。』
 判決は中間利息控除利率に関する最高裁判例に従いながら、その上で中間利息を控除する方法はライプニッツでなくホフマンを採用した。
 『この中間利息控除の方式について、周知のように、単利方式であるホフマン方式と複利方式であるライプニッツ方式が存在するが、このいずれの方法も、不合理とはいえないとして是認されてきているところである。そこで、本件において、そのいずれを採用すべきかが問題となる。ところで、利息に関して、民法は、その404条で法定利率を定める一方、これに続いて同法405条で利息の元本への組み入れ、すなわち法定重利(複利)について特別の要件を定めているが、この内容からすると、その要件を具備した場合に始めて法定重利(複利)を認める反面、そうでない場合には、利息については単利計算を原則とする旨を定めていると解するのが相当である。そうすると、それ自体が利息に関する問題である中間利息の控除においても、民法がその404条に定める年5パーセントの法定利率を採用する以上、その法定利率による控除方式としては、特段の事情がない限り、民法405条が定める原則である単利に相当する方式、すなわちホフマン方式を採用するのが、民法の定めるところにより合致しているものと解される。』

 ホフマンとライプニッツの争いについて最高裁はどちらでもよいとし、最高裁の決着は未だについていない。中間利息控除利率を5%とした平成17年6月14日の最高裁判決もライプニッツとホフマンの争いの決着はしてなかった。そういう状況で高裁段階で、民法上はホフマンが正しいとする判決が出た。
 ライプニッツが主流とされる交通事故訴訟において、ホフマンが民法の定めるところとの今回の高裁判決は画期的である。中間利息控除利率を法定利率5%とする平成17年6月14日の最高裁判決の直後に福岡高等裁判所がホフマンを選択したのは裁判所の良識を感じる。判決の意義は次の通りである。
@ 中間利息控除法定利率論の平成17年6月14日最高裁判決直後である。
A 高等裁判所の合議部で出しており無視できない。
B ホフマンが法律に合致しているとは、逆にいうとライプニッツは法律違反となる。
C 金利に敏感であれば、裁判所は違法行為に加担していることになる。