毎日新聞 論点【飲酒運転撲滅と厳罰化】10月28日朝刊
常習違反者の根絶を(厳罰化に加え処罰後の監視やケア必要。司法の意識改革や捜査体制強化も課題)
平成18年11月7日
 

 5年前の危険運転致死傷罪による厳罰化で、飲酒運転による死亡事故は約400件減った。だが、ここ数年は横ばいだ。厳罰化が一定の効果を上げた一方、限界が現れたといえる。背景には、飲酒運転を常習的に繰り返すドライバーの存在があり、この問題の解決なしに飲酒運転の撲滅はない。
 問題は、常習者に罪の意識が薄いことだ。酔って気持ちが大きくなり、軽い気持ちでハンドルを握る。事故を起こしても、「自分のせいじゃなく酒が悪い」と思い込む。これでは反省の情もわかない。
 常習者の再犯を防ぐためには、懲役や罰金で罰するだけでなく、教育や治療、そして処罰後も公的な機関が継続的に監視できる仕組みが必要となる。
ヒントは、米国・ニューメキシコ州にある。飲酒運転の処罰者の車に、インターロックという検知器の取り付けを義務化している。機械に息を吹きかけアルコールが検知されるとエンジンがかからない仕組みで、記録は司法当局に報告される。飲酒運転を繰り返せば、取り付け期間も延び、終身取り付けもある。
 米国も日本も、車があってこそ生活や経済が成り立つ車社会。だが、米国では飲酒運転を、無差別殺傷を起こす可能性を認識しながらハンドルを握った「故意犯」ととらえ、殺人罪を適用するケースもある。一方、日本ではあくまでも「過失」の延長。処罰は甘い。
 甘い背景には、警察や司法が、交通事故を軽く見る傾向があるからだ。人身事故に関する業務上過失致死傷罪での起訴数は、年約10万もあるのに、危険運転致死傷罪は年300件前後しかない。同法の適用方法がマニュアル化されず、現場の警察の裁量に委ねられているためだ。
 現場の警察官も不足している。危険運転罪の立件には、「飲酒により正常な運転が困難な状態」を立証する必要がある。だが、容疑者が飲んだ酒量や酔いの程度を、飲食店の伝票や知人の証言などから裏付ける補充捜査には膨大な手間がかかり、警察にとって大きな負担だ。
 また、検察で捜査などを担当する副検事の問題も見逃せない。警察がいったん業務上過失致死傷容疑で逮捕すると、補充捜査が必要な危険運転致死傷に容疑を切り替えるのを嫌う。遺族に会いたがらず、起訴を避ける担当者すらいる。1986年まで70%以上あった人身事故の起訴率は今や10%強。過去の厳罰化で処理の量が増えたためだが、交通事故は、犯罪扱いされていないと言える。
 ただ、法律の懲役刑を引き上げるさらなる厳罰化は必要であろう。業務上過失致死傷罪や道交法(ひき逃げ)の刑罰が低いために「逃げ得」が横行するなど、法の不備があるからだ。
 だが、飲酒運転が社会問題化している今、厳罰化の実現だけで終わらせたくない。飲酒運転根を絶つ常習者対策とともに、適正な法の運用や起訴がなされていない現状を踏まえた議論を期待したい。