『なくそう飲酒運転 故意ととらえ厳罰方向に』
朝日新聞オピニオン(2006年9月23日)
平成18年10月27日
 

 福岡市の3児死亡事故では危険運転致死傷罪が適用されるかが注目された。同罪は酒や薬物の影響で「正常な運転が困難な状態」で走行した場合などに適用される法律で、01年に新設された。過失犯である業務上過失致死傷罪が最高懲役5年なのに、危険運転致死傷罪は最高で20年の懲役が科される。ただ「正常な運転」という要件が何を指すのかは明確でなく、当初から運用は現場の警察や検察に任されてきた。「正常な運転が因難な状態」だと判断する基準の一つは、加害者の呼気中のアルコール濃度だ。危険運転致死傷罪が適用されたこれまでの例の大半は呼気1g中0・5〜0・6_グラム以上の場合だが、今回の事故で、今林大容疑者は0・25_グラムだった。これは02年に道路交通法の改正で0・15_グラムに引き下げられるまで、酒気帯び運転に問われる最低ラインだ。数年のうちに基準が大きく変わることは法運用の面で問題を残す。一方で飲酒運転の厳罰化を求めてきた遺族らにとっては画期的な事例になる。危険運転致死傷罪に問うケースは増えるだろう。
 危険運転致死傷罪は故意犯として、過失犯である業務上過失致死傷罪と区別して考えられているが、むしろ業務上過失致死傷罪の延長として考えるべきだろう。飲酒した上で車を運転することが故意であり、事故そのものはあくまで過失だ。たいていの人が「運転しても大丈夫」と思って飲酒運転をしている。この時点で故意と考えるべきで、「正常な運転が困難な状態」だったかは客観的な事実で立証すればよい。ただ、警察や検察の現場ではどこまで適用可能なのか、混乱している。どういう事例に危険運転致死傷罪が適用されるのか、判例はまだ少ない。
 交通人身事故の増加で、国は68年に業務上過失致死傷罪を懲役3年から5年に引き上げた。一方で事故の処理件数が急増し、人身事故の起訴率は急激に低くなった。近年は起訴率は1割程度にとどまり、約9割の事故は不起訴になるため、警察も検察もきちんと捜査をしたがらない。人身事故の「非犯罪化」とも言える。起訴率を上げないまま厳罰化を訴えるのは矛盾しており、厳罰化の効果は上がらない。68年の法改正は、交通人身事故を社会問題としてとらえた官民あげてのキャンペーンだった。しかし、最近は世間の耳目を集めた個別の事故が法改正を後押ししており、社会全体の痛みとしてとらえられていない面がある。
 世界的に見ても飲酒運転は厳罰化の方向にあり、酒を飲んで運転することを社会が許さなくなりつつある。アメリカではジョッキ1杯のビールで殺人罪が適用されるケースもある。欽酒運転死亡事故は未必の故意による殺人であるとの考え方だ。日本もその方向に向かうべきだろう。社会が飲酒運転に対してどれだけ寛容でいるかの価値観は、時代とともに変化していく。いま、日本は飲酒運転を許容する社会になるのか、許さない社会になるのか、分岐点にある。

弁護士:松本 誠  51年生まれ。著書「加害者天国ニッポン」(GU企画出版部)