重度後遺症被害者のための裁判(32)
重度後遺症事例の逸失利益や将来介護費の原価計算基準時は不法行為時か、症状固定時か?
平成18年8月22日
 

問題点 
 重度後遺症事例で、最近逸失利益や将来介護費算定において、従来の中間利息控除をしたうえ、さらに症状固定時までの係数を控除すべきだという主張が幅を利かせています。この理屈によれば、逸失利益や将来介護費が極端に減額されます。損保主張を認める典型判例と、これと異なる判例を紹介します。
 計算の違いは傍線部分にあります。症状固定時までの時間が長ければ長いほど、被害者は損害を蒙ります。一生懸命治療しても係数が少なくなる帰結です。被害者原告は判例を引用されたら必ず声を上げないと、判例どおりとされます。

第1 判例
不法行為時説【判決要旨】 
 「事故時から症状固定時まで2年11か月を経過している」ことから、逸失利益算定につき、事故時から症状固定時までの3年間の中間利息を控除して認定。
京都地裁 平成17年3月24日判決 事件番号 平成16年(ワ)第1765号 
〈出典〉 自動車保険ジャーナル・第1603号(平成17年9月1日掲載)
事例 原告は症状固定時48歳 後遺障害等級は併合7級、労働能力喪失率は56%。67歳まで19年就労が可能。

原告と被告の主張
原告主張
 19年間に対応する年5%のライプニッツ係数は12.0853である。
 351万8,200円×0.56×12.0853=2,381万0,361円
被告損保主張
 原告が事故日からの遅延損害金の支払を求めている以上、逸失利益算定の基準時は事故時とすべきだから、症状固定時までの係数を控除。 
 13.1630−2.7232=10.4398
判決
 事故時から症状固定時まで2年11か月ほど経過していることや、原告の主張構成を考慮して、公平を図る趣旨から、中間利息の控除方式については、事故時から逸失利益発生時期の終期までのライプニッツ係数から、事故時から症状固定時までのライプニッツ係数を引いたものを、本件の中間利息控除係数とする。そこで、(45歳から67歳までの22年間のライプニッツ係数)−(45歳から48歳までの3年間のライプニッツ係数)=13.1630−2.7232=10.4398
 351万8,200円×0.56×10.4398=2,056万8,410円

症状固定時説
 被告損保は中間利息控除の基準時は不法行為日に求めるべきと主張する。
 しかし、この点は『休業損害や付添費についても、現実の発生期間が相当長期間にわたる場合であっても、その損害額に事故時からの遅延損害金が付されるからといって、厳密に中間利息を控除して事故時の現価を算出することはしておらず、単純に積算した額をもって事故時に発生する損害と認定してきているところである。そして、休業損害と後遺障害逸失利益、あるいは、付添費と将来の介護費は、症状固定時という時期を挟んで分かれてはいるものの、それぞれ性質上、同質性・連続性を有するものと解されるところ、後遺障害逸失利益あるいは将来の介護料についてのみ厳密に事故時から症状固定時までの中間利息を控除することは均衡を失することになる。したがって、後遺障害逸失利益や将来の介護費を算定する場面においてのみ厳密な論理を適用し、事故日から症状固定日までの中間利息を控除することが相当であるとはいえない』という東京地裁の判例がある(東京地裁平成16年6月29日判決、自動車保険ジャーナル1551号3頁)。

第2 結論 = 公平さ でいくと、症状固定時を基準とすべきです。
 最初に指摘した判例は、他の裁判所でも見受けられるようになってます。中間利息で5%認める最高裁判決が先日でましたが、そのうえ、これも認定されることとなれば、重度後遺症被害者にとっては踏んだり蹴ったり、となります。

 損保の主張根拠は『事故日からの遅延損害金が認められる以上、公平上基準時を不法行為時とすべきだ』ということです。
 しかし、事故日からの遅延損害は、損保側が支払い遅延をするから生じるのであり、損保が任意弁済すれば損保の支払いはなくなりますから、損保側の遅滞行為を理由に被害者側に不利益に、つまり損保側に利益に計算することはあまりに不公平ではないでしょうか。