『逃げ得を許さない』検察
―危険運転致死罪の適切な運用―
平成18年3月12日
 

 業務上過失致死傷罪は5年以下の懲役禁固に対し、2001年新設の危険運転致死傷罪は15年以下(現在20年以下)の懲役です。これにより、悪質な交通事故は増加しなくなりました。立法による抑止効果が出たのです。
 ところが、2001年の危険運転罪の新設以降、ひき逃げが極端に増え、アルコールが抜けるのを待ち出頭するケースが増えてます。事故をした後で、悪質となったことを思い出すのでしょうか。ひき逃げして、アルコールが発覚しなければ、危険運転で処罰されず、業務上過失致死傷罪とひき逃げで済みます。実務ではせいぜい5年以下の懲役です。正直に出頭すれば20年以下が、悪質にもひき逃げまでして、刑は5年以下となるので、『逃げ得』と批判される問題が起こっています。
 今日までの検察の運用を見る限り、逃げ得を許す実情で、受身の検察でした。遺族の心情に背を向ける検察の姿勢がありました。
 かかる検察の姿勢に対し、『逃げ得を許すのか』との世論の批判や遺族からももちろん、批判が多数出るようになりました。

ところが最近『逃げ得』批判を受け、検察の猛省を示す事件が2件ありました。

(1件目) 翌日出頭の加害者を危険運転で起訴
 2006年2月25日記事『酒抜き後の出頭を許さず 危険運転致傷罪で男を起訴』とありました。7人にけがを負わせ逃走、事故翌日出頭して業務上過失致傷で逮捕された男を、大阪地検が危険運転致傷罪で起訴しました。1月30日午後10時頃、大阪市淀川区の交差点で、酒に酔って車を運転中に対向車4台に衝突して7人に重軽傷を負わせ、車を乗り捨てて逃走。翌日出頭したが、飲酒量の特定が困難だったため、業務上過失致傷容疑で逮捕送検され、かつ、補充捜査して、被疑者の車の同乗男性の証言から3軒の居酒屋に行き、焼酎を10杯以上、生ビール3杯飲んだことが判明。酩酊状態と判断し、危険運転で起訴したのです。

(2件目) 翌日自首の加害者を危険運転で起訴、挙句に懲役20年の判決
 2005年2月に8人が死傷した千葉県松尾町の事件は、事件発生前まで、友人宅で発泡酒1杯、焼酎水割りグラス2杯、日本酒4合を飲み、自首した時には、事故から11時間後で、検出アルコールは呼気1リットル中0.03ミリグラム。0.15ミリグラムを下回ってたから検知量はほとんどありません。しかし検察は『酩酊状態で乗用車運転し』と起訴しました。

検知アルコールほとんどなし事例
 2件とも検知の『アルコールほとんどなし』事件です。
 補充捜査により(飲酒の)目撃者を探り当て、供述調書で裏づけしたのです。 
2つ目の事件は、自首もあり、公判では誘導の調書と争いましたが、裁判長は「無免許で飲酒運転し凄惨な事故を起こしたのは言語道断」とし、懲役20年(求刑25年)を言い渡しました。被告人にすれば極刑事件です。

危険運転罪の要件
 危険運転罪は、最近加害者側弁護人の本も出回り、問題となる点を上げます。
@ 故意
 加害者側弁護人は故意がないと争う事件が多いようです。
 『正常な運転が出来ないことを認識していないから、故意がない』と。
 しかし、危険運転罪は故意犯ではありません。公共危険犯といわれます。酔っ払いに故意や認識を求めるのはおかしいのです。
 飲酒運転をすること自体に故意があれば充分なのです。
A アルコール検知量は必要か
 危険運転は「アルコールの影響で正常な運転操作が困難な状態」を要件とします。法律上の要件は、アルコールが検知されることが必要とは書いてません。ただ、捜査上、『アルコールの影響で』を立証する必要があります。そのため、一般的には0.5mg前後のアルコール検知が事故時に必要とされるのが実務です。この要件はもともと道交法の酒酔い運転の一つの基準として通用しています。0.5mgあれば危険運転としやすいということでしょう。
 もし0.5mgが検知されないのであれば、時間と検知量から推測されることが必要です。たとえば10時間後に0.1mg検知されれば、推定で1時間0.1mg減少と計算ができますから、正常な運転が出来ないと判断されます。
 しかし、危険運転を立証するためにはそれだけでは足りません。殺人罪に匹敵するほどの刑の重さですから、他の立証資料が必要です。
 2件について補充捜査を徹底しているのはこのためです。酒席を共にした者、酒を販売した者、これらの人達の供述がいるのです。問題は補充捜査にあたって、これらの供述者を罰していいのかどうかという問題もあります。罰したら、危険運転罪の運用はできないこととなります。アメリカならば、司法取引の場面です。正直に言えば許すということです。日本は司法取引が出来ないといわれていますから、現場がこれからどうするのか、注目です。