重度後遺症被害者の裁判(25)
高次脳機能障害D【就職(復職)と裁判】
平成18年2月9日
 

―『念願の就職(復職)なのに示談しなければならないのか』と悩む家族へ―

1 問題点
 労働能力100%喪失とされる1級〜3級の高次脳機能障害被害者が症状固定後に就労した時、不利益となるのでしょうか。生活と裁判は矛盾するのでしょうか?
 高次脳機能障害と判定されても、被害者や家族は『従前の生活』を希望し、就職等を意図して前向きにリハビリに取り組みます。ところが裁判の障害(壁)となるのが、本人が就職や復職した場合です。例えば3級以上の認定を受ければ、労働能力喪失100%とされ、就職することはマイナスとなる、と思う家族や弁護士が多いのが実情です。現実に示談交渉をしてくる損保は就労している場合は、労働能力喪失割合を70%や50%とします。1級事例でも50%とする例すらあります。
 現に就職していると、損保は民事裁判では『等級』を争い、『労働能力喪失してないからせいぜい50%の喪失』と主張し、不当に低い金額を呈示するのです。
 また損保は以前議論した『将来介護費用』を当然に認めないとなります。

2 事務所の相談から 
 この問題で悩む家族は多いようです。
事例@ 
 被害者家族『せっかく働くことのできる場ができました。でも等級を争われたり、逸失利益がないとされることになるおそれがあるので、示談で済ますか、とあきらめようかと悩みぬく毎日です』 と。
 私 『答えはすぐに出さないほうがいいです。裁判することによって就職が不利益になるわけではありません。就職しても労働能力喪失を認める判例もあります。いわば職場をリハビリの扱いのようにみなすのです』と。
事例A 
 被害者家族『自賠責等級1級なんですが、某電鉄会社に復職しました。損保からは働いているから、労働能力は100%喪失でない』と言われていますが、示談に応じなければなりませんか?』(示談額は自賠責を含み7千万)
 私 『会社が大手だと障害者雇用枠を活用するので復職はこれによりますから福祉的要素となります。理論的には100%喪失で計算されるはずで、示談に応じる必要はありません。』 

3 解説
 高次脳機能障害の裁判は、生活と裁判とが矛盾する場合がよくあり、これもその典型の一つかもしれません。生活面では就職や復職が一番のリハビリなのですが、裁判でこれが災いする面があります。つまり就職や復職によって労働能力喪失割合が下げられ、等級認定を争われ、ひいては将来介護費も請求しないとなります。これは損保の理屈であります。ところが実際は、被害者の大いなる努力や家族の涙ぐましい努力で復職が遂げられたのであり、或いは雇用会社の障害者雇用枠制度の利用により就職や復職が出来たりする場合がほとんどです。労働能力が復活したわけではないのです。
 しかし外形的に給料をもらってる事実がありますから、損保から『働いているじゃないか』と言われ、肩身の狭い思いをする高次脳機能障害者の家族の姿があります。

 先日の東京地裁判決(17.10.27.)はこの問題に答えました。
 すなわち1級3号事案で、復職しても逸失利益は労働能力喪失9割としました。
 その理由は1級障害者の職務を【周囲の恩恵的な配慮と、本人の多大な努力による】就労と認定しました。高次脳機能でたまたま職場復帰した事案で共通して使える理由です。

 いわゆる赤い本(交通事故損害賠償算定基準)には、【減収がなくても逸失利益を認める
例】として、これと同腫事案が何例か記載されています。
 なぜ逸失利益を積極的に認めるのかの理由が大事です。判例の理由を挙げると
  『減収がないのは本人の特別の努力によるため』
  『勤務による収入は福祉的要素が強いため』
  『被害者の不断の努力によるため』などです。
 裁判では事例に即して、理由を考える必要があると思います。