重度後遺症被害者の裁判のために(23)
高次脳機能障害事例 家族は何に気をつけるべきか
B自賠責等級認定
平成17年11月3日
 

 重度後遺症被害者の事件の特質を被害者家族は把握する必要があり、民事は身体障害の後遺症と比べてどう違うか理解すれば対応も違います。意外に知られていないのが高次脳機能障害の自賠責等級認定の特質と重要性です。

  1. 事故発生して、入院し、治療が一定期間行われると、障害者手帳、症状固定、自賠責請求等の問題が発生し、解決の順番を決めていくとなります。被害者の過失が想定される時等、医療費を安くするため、障害者手帳交付の診断書を書いてもらい、手帳の交付を受けることが最初の手続きとなります。
    次に、自賠責請求(等級認定)のための症状固定をすることとなります。
    症状固定は治療をしてもこれ以上は良くならないとされる時期と言われますが、どの時期を選ぶかは、家族が医師と協議して決めます。早ければ半年でしょうか。(障害者手帳の診断書作成の症状固定時期と同一でない場合は問題となるでしょうが。)
  2. 書類
    自賠責申請にあたり、どのような書類がいるかですが、自賠責担当損保に電話して、必ず『高次脳機能障害用の自賠責申請書類を送付してください』といわなければなりません。3点セットの家族日常生活報告書、医師所見、後遺症診断書が郵送されます。
  3. 次に症状固定をもとに、医師の後遺症診断書を書いてもらい、自賠責請求となるのですが、高次脳機能障害事例は、被害者は特に慎重に手続きをしなければなりません。
    高次脳機能障害の事例をたくさん知れば知るほど、等級認定にあまりのばらつきがあることに驚きます。 どういう基準で決定されているのかと思うほどです。
  4. 高次脳機能障害の決定は、通常の後遺症認定手続きと異なる手続きです。他の後遺症認定のように『後遺症診断書一枚が重要視される』のでなく、事故直後の意識レベルの数字や意識のない状態の時間が取り上げられます。これらは高次脳機能障害の本に記載されています。カルテ記載でいうと初期数字が重く見られます。後遺症診断書に(高次脳機能障害)の明示の記載がなくても、後述するように、家族の介護報告でも示され、かつ初期症状の特徴が現れば高次脳機能障害と認定される事例もあります。
  5. 次に家族の日常生活報告書が重要です。生活報告書の重要性を知らない家族が簡単に報告書に○×を記載して提出すると後悔することになります。
  6. それを前提とした医師の所見書、そして後遺症診断書作成と続きます。通常の後遺症診断と明らかにその判断材料と手続きが違います。指摘しなければならないのは、被害者にとって最適な作成の順番です。
  7. 専門の高次脳障害専門特別部会において審査され、等級が決定されます。裁判で言えば例えば、いきなり特許等の専門部会で審査されるようなものです。
  8. ゆえに提出書類作成では慎重になる必要があり、かつ資料もたくさん書面を提出する必要があります。しかも質の良い資料を作成しなければなりません。
  9. 準備
    これを把握すれば高次脳機能障害の相談を受けてから、家族の生活状況報告作成に相当時間を費やすのが当然です。半年間時間をかけたこともあります。なぜかというと、家族は事件前と事件後の被害者の家族と、時間が連続して一緒に生活していますから、どういう風に人格が変わったのか、とても表現できないことが多いからです。なぜ人間が変わったか、了解できない部分とか、了解しても認めたくない部分とか、疑問と不自然さを同時に抱えながら生活しているのですから当然です。 
    当初は、家族もリハビリで治るものと思っている場合が多いのです。
    被害者本人の人格が変わり、元の人物に戻るとことがないと、家族さえ本当に了解するのは、他の家族の高次脳機能障害事例を見たり、高次脳機能障害の本を読んで初めて納得するのです。この了解自体、時間がかかることとなります。
    これに時間をかけず、日常生活報告書を簡単に提出すると、間違いなく後日後悔することとなります。記載した一言で決まってしまうからです。
  10. 日常生活状況報告書作成
     私はこの日常生活報告を書くときは、日常のエピソードを探して、書くようにと指導してますが、『 エピソードを探しなさい』といっても、家族は毎日が家庭内ストレスの連続で書くことに億劫ですし、的確な表現もあまりできません。
     しかし、医師のカルテや後遺症診断書で『見過ごされやすい点』はたくさんあるはずです。後遺症診断や所見報告を書く担当医も、家族の報告を読めば、気づかない症状や病態に気がつき、カルテに記載をするというプラス面も生じます。
    医師はカルテを書くが、高次脳機能の生活状態まで把握できません。
    家族の生活状況報告が最も重要なわけは、以上の理由です。
  11. 日常生活状況報告の内容
     報告書は、マニュアルで丸つけする事項が決まってます。逆に言うと、情緒や記憶、コミュニケーション、生活状況等の高次脳機能の問題分野を指定され、質問しているのです。だから、生活状況報告は丸をつけるだけにとどまらず、生活内容やエピソードを、具体的に書き連ねると、非常に説得力があります。○×では伝わりにくいのです。
     具体的には欄外に記載を付け加えたり、別紙報告書として提出します。
  12. 高次脳機能障害の理解
     高次脳機能障害の被害者寄りの本を読んでから日常生活報告は書いたほうがいいでしょう。山口研一郎著『脳受難の時代』御茶ノ水書房、永井肇編『脳外傷者の社会生活を支援するリハビリテーション』(中央法規)、ネット検索『脳外傷による高次脳機能障害を正しく理解するために』(増澤秀明論文)、大阪弁護士会交通事故委員会『高次脳機能障害について』(一般に入手不可)などあります。これ以外にも最近出た『高次脳機能障害と損賠賠償』(吉本智信著、自動車保険ジャーナル発行)もあります(必ずしも被害者寄りとはいえませんが)。
     これらの本に記載された高次脳機能障害の情緒障害等の数類型を頭に入れてから、被害者本人の行動の特徴や家族の声かけ等の詳細日記と、それをまとめた資料をつけ、提出することを勧めます。この段階までいけば、裁判対策の資料となります。
  13. 順番
    作成した日常生活報告書は、まず担当医に見せることが何よりも重要です。
     それに記載された事項について、医師は所見を含めて、医師の意見書を書くからです。高次脳機能障害事例では、医師の意見書はカルテだけにもとづくものではないことを肝に銘じておく必要があります。
  14. 弁護士や他人任せについて
     手続きは家族だけでやったほうがいいでしょう。高次脳機能分野で詳しい弁護士は極めて少なく、聞いても、とんちんかんな回答しかしません。交通事故を不得意とする場合もありますが、高次脳機能障害が最近赤本で取り上げられた新しい問題が原因です。『症状固定をしてから来てください』とか、『刑事事件が終わってから相談に来て』 とか平気でいいます。問題の重要性を理解すれば、適切なアドバイスもするでしょうが、現状では無理です。 自賠責請求は、家族自らすべきです。書類も自分で作成しなければならないものばかりです。人任せにすると後に後悔することとなります。それはこの文章を読めば答えが出ています。