鑑 定 平成17年8月22日
 

死亡事故で遺族が考える対策に鑑定があります。『先生、鑑定士紹介してください』との相談も数多くあります。

  1. 交通事故の捜査は、一瞬の事故を再現する仕事ですが、警察官の数は20年増えてないのに、件数倍増のため捜査は形式的でずさん捜査なる背景があります。しかも人身事故をできるだけ処罰しない政策を国がとっているため、捜査は事務的で科学捜査をする土壌にありません。このため捜査は加害者の供述に沿い、目撃者を探す努力をせず、道路や車の痕跡を徹底して調べる作業をしないといっても過言でありません。そのため遺族は専門家に分析してほしい、鑑定してほしい、と望む人も多いのです。もちろん警察の科学捜査研究所の行なう鑑定ではなく私人=鑑定士の行なう鑑定です。
  2. ところが裁判所はその鑑定結果を必ずしも受け入れるわけではありません。むしろ排除する場合が多いのが現実です。そのうえ鑑定士は特に資格が要求されるわけではなく、信用できるかという問題もあります。7年程前、鑑定士と称するTが大阪で講演をしたことがあります。雑誌『世界』にTが交通事故鑑定士として紹介されたことで、講演したのです。Tは東京を中心とする遺族の会で被害にあう人が出て、詐欺の刑事事件の被疑者となり実刑となりました。鑑定費用をもらって仕事しなかったわけで詐欺となるのは当然です。詐欺でなくとも任意鑑定を依頼しても民事裁判で裁判所が採用する例はあまりないので、鑑定が無駄となる場合も多くあります。というのは刑事記録がある以上警察の捜査が正しいとされ、これに反する鑑定の採用を裁判所がしない傾向にあるからです。したがって鑑定をしてよいかの判断はむずかしいのです。
  3. それでも鑑定を希望する遺族が多いのは警察の捜査があまりにずさんだからです。証拠保全をすべきなのにしていない。加害者の言い分に沿う捜査しかせず、加害者の供述が疑いもなく供述調書に記載されているから遺族にすればたまりません。加害者の供述に沿う捜査をしているため、それに反する目撃者や速度表示記録をつぶしたのではないかとの事件も扱いましたので、遺族が疑うのはもっともなのです。
    特に不起訴事件は、遺族が捜査を監視できないまま、不起訴とされるため、遺族が納得しない場合が多いのです。 
    事例)先日、岡山地裁で不起訴不当となった事件がありましたが、遺族が任意鑑定を依頼された結果を提出したことで、検察審査会が不起訴不当と判断した例もあります。
  4. 任意鑑定が有効な場合もあります。警察で鑑定を要する事件なのに、適切な鑑定をしてなかったり、加害者の供述しかない場合に衝突見分が腑に落ちなかったり、速度が目撃者の供述と違う場合に鑑定を頼むことが有効となる可能性もあります。
    事例)科学捜査研究所の鑑定(被害バイク速度52キロ上限推定困難)がある事件なのに、警察がそれに反した調べ(バイク速度時速80〜90キロ)をした事件を担当しました。民事裁判は任意鑑定を依頼をしたためか、時速80キロ以上とされた被害バイク速度が時速50〜60キロとなり、被害者に殆ど過失なしと判決されました。
    他にも、鑑定によって 1)捜査段階で鑑定依頼して警察が前向きになったり、2)検察審査会に申し立てるために鑑定を利用する場合で、鑑定を頼むことに積極的な意味がある場合もあります。3)刑事裁判が終了した後も科学捜査研究所鑑定が不十分な場合、民事裁判の場で新たな任意鑑定を立証資料として、積極的民事審理がされ、或は立証として有効となる場合もあります。
  5. それでも、あくまで鑑定依頼は、自己責任ですから、鑑定費用が高かったとか、民事裁判で採用されなかったりとか、目的を達成できなかったとしても鑑定を利用した結果責任は自分で負担せざるをえません。
    鑑定の必要を遺族が感じる背景は、捜査情報を入手できず反論もできないまま、加害者の供述通りとされてしまうことに対する反撃の手段のひとつであることは間違いありません。刑事記録をあたかも真実であるかのように扱う民事裁判に対する遺族のこだわりと怒りの証拠として鑑定書を提出することに、遺族の強い怒りの意思を見出す裁判官がいればいいのですが。
  6. 鑑定合戦
    鑑定を遺族が頼むと、損保側も鑑定をしてきます。 裁判は鑑定合戦の様相を帯びてきます。
    同じ道路痕跡や車両痕跡を材料にしながら、鑑定結果が違う場合がほとんどです。
    鑑定合戦で大事なのは、その違いを見抜くことや、鑑定についての理解です。 
    1) 先日の毎日放送での取材に鑑定士が出演されていまして、その鑑定士の言うことは正直でした。【鑑定が客観的であるということはありえず、依頼内容に沿う鑑定をしてしまう】と。
    2) たとえば、摩擦係数というのは、確定した数値でありませんから、依頼に沿う数値を使えば顧客の信頼に応えるとなります。 鑑定といいながら、道路上の事故の摩擦係数だけでもこうなのですから、衝突角度や衝突速度等によって、この鑑定の裁量の幅はかなり違ってくるのです。
    3) そして、これを見抜く裁判官はあまりいないと言っていいでしょう。できれば鑑定の結論に従い判決すれば裁判の形式的信頼も損なわれませんから。