重度後遺症被害者の裁判のために(20)
高次脳機能障害裁判の対策自賠責認定の後遺症等級を加害者=損保が争い、医師意見書が提出されたら、どう対処するか
平成17年8月8日
 

問題点
 高次脳機能障害の裁判では、損保側の医師意見書が提出されてくる例が多いのが実情です。損保側の目的は、自賠責認定等級をより低く評価し、労働能力喪失割合をより少なめとすることにあり、ひいては逸失利益を少額にする目的です。将来監視費や将来介護費を不要とする目的もあります。たとえば2級認定事例で、5級相当と損保側医師意見書が提出されると将来介護費は不要との主張が損保より出てきます。
 これに対して被害者側は戦う必要があるのですが、自賠責等級が既に出ているため、さらなる立証の必要があると考える例は稀です。よく見受けられる受身弁護士の類ならなおさらです。受身が致命的なのが高次脳機能障害の裁判です。これとどう戦うか問題となります。
(1級障害の意識障害も医師意見書が出されることがある。介護がそれほど必要ないとか、或はデータをもとにした余命期間が短いとかで出ることも有る。)
 特に後遺症等級について自賠責等級で高次脳機能障害3級とされるのに5級と医師が判定したりする場合など、高次脳機能障害裁判では損保側から必ず医師意見書が提出されると思っていい。

対策論
 大枠の戦略と細かい戦略が必要となる。
 大枠の戦略は、後遺症等級を損保側が争うことは必定であるから、被害者側もより高次の等級と主張することも大事です。たとえば高次脳機能だけで5級とされ、身体障害について漏らさず等級認定の対象となっている場合は少ない。顕著な身体障害だけを挙げ、併合等級が1級繰り上がるくらいです。すると『自賠責等級はより高次の等級認定をすべき』と主張する必要もあります。裁判とは別途に、算出機構に対して等級認定に対して異議申立をする場合もあります。

損保側の医師意見書への対処
 典型的なのは神経心理テストの点数が高いから、高次脳障害の等級認定は不自然として、医師が低い等級と意見書を提出します。略歴で脳外傷病院にいたとされる医師も平気で書きます。 かかる書面が提出されると、書面審理を中心とする民事訴訟は、反証しないと、損保の主張を認めてしまうことになります。これに対する反論はどうするか、が問題となるのです。

  1. 患者を見ていない医師の意見書は、患者を診てない医師が診断書を書くに等しく、信用できないと、反論します。医師法違反ではないか、と強調してもかまいません。
  2. 高次脳機能障害は、神経心理テストの成績は高点数である場合が多く、この点を損保側は、日常生活に支障がないと、医師意見書を資料に主張してきます。
     しかし、高次脳機能障害は、人格障害ともいわれ、今の人格と以前の人格とは別であるとされる点に反論する時のキーワードがあります。情緒障害や遂行能力に問題が有る点が核心であり、表面的な神経心理テストの結果では決められず、日常生活の環境適合やコミュニケーション能力、等総合して決められるとされます。
    文献でも触れられている重要な点です。
      山口研一朗医師『 脳受難の時代 』
      増澤秀明医師論文『脳外傷による高次脳機能障害を正しく理解するために』
    これらの文献は非常に示唆されるだけでなく、裁判資料に使えますのでお勧めします。
  3. 日記や家族症状報告
     このため自賠責の高次脳機能審査では、家族の日常生活報告書を医師診断書と同じくらい重視する傾向にあります。等級認定で、家族報告で左右される例は高次脳機能障害だけです。それゆえ自賠責等級認定申請は、慎重に、かつ整理した日記と症状の特徴と家族の負担を書くよう、家族には指導します。準備だけで2〜3ヶ月はかかる作業です。この作業は、裁判になっても積み重ねていく作業であり、高次脳機能の6つの特質が、同居家族にどう関わっているのか、あるいは就労先にどう関わっているのか、或はどうしてアルバイトを止めたのか等、細かく日記をつけていきます。
     買物ができないのがどうしてか、友達ができないのがどうしてか、家庭ではできることが外ではできないのはどうしてか、など問題の理由が浮かび上がってきます。
     最近扱った例では、3級障害と認定された40才代の男性が将来介護費必要と主張したところ、損保が日常生活のビデオを撮影し、近所で買物をしているとか、近所を行き来しているとかの、証拠を提出してきました。 これに対して被害者家族は、本人の可能生活範囲は何処そこまでであること、買物もチラシを持参させて、お金もわずかしか持たせていないこと、等を詳しく報告書で記載し、提出しました。 地域で生活ができても、少し違うと生活できないことを立証する必要があるのです。裁判の結果は3級でも将来介護費が認定されました。
     かかる家族の日記と日常生活報告書は裁判では、医師意見書への重要な武器となります。
  4. 担当医師への意見書の照会回答
     この他に、高次脳機能障害の診断をした医師に損保医師意見書の照会をして、回答をもらって、これを反証の証拠とする場合もあります。この場合、高次脳機能障害の特質をこちらも十分に理解して、質問をする必要があります。
     これも、場合によっては追加照会をする必要もあります。回答が不十分か、質問が不足していることがあるからです。
  5. カルテの分析
     損保側医師の反論はカルテ記載から来る場合も多くあります。症状がよくなっていることをカルテでは書かれていることが多いからです。高次脳機能障害では、表面的な症状回復があっても、本当は自宅復帰してから、判明することが多いのが実情です。これに気がつけば、家族報告書を持って反論できます。その前提として、カルテの分析は必要となるでしょう。
  6. 能動能力喪失割合
     等級認定が争われるとのは、実は形式的な問題でありまして、本当の争点は労働能力喪失割合です。民事裁判した事例のなかには、等級認定の結論を出さずに労働能力喪失割合だけ決定した判決もある位です。
     すると、労働できるのか、具体的エピソードを示すことで立証する場合もあります。たとえば、バイトをしたけど続かない、就職したけど問題があるなどです。
     これらも家族の報告や場合によっては、職場の報告が必要です。
  7. 奥の手
    高次脳機能障害の場合、身体障害や意識障害と異なり、原則として将来介護費が認定されることはないとされます。しかし介護や監視を要するほどだ、と主張することで、労働能力喪失割合が高くなるというのが理屈です。
     しかし、家族のストレスや監視的作業、あるいは生活に関する注意監督は並大抵ではありません。この家族の労力を裁判上主張することが大事です。
     これに気がつくこと自体難しいですが、高次脳機能障害での家族のストレスや将来不安を、何か形にする必要があるとすれば、将来慰謝料か将来介護費しかありません。
     慰謝料の基準は少額なので、慰謝料で主張するのは止めた方がいいでしょう。むしろ将来監視、あるいは将来生活監督の費用として請求することが一番です。試みに将来介護費を請求して最近2例ほど認定されたので、次回報告します。