【ずさん捜査を認定した大阪地裁】
―ずさん捜査を生む原因―
平成17年5月21日
 

 死亡事故の遺族の無念は世間が理解しがたい面があります。被害者の無念や加害者の処罰の軽さへの無念だけでなく、捜査のずさんさに対する無念です。しかも捜査のずさんさへの無念が晴れる事件は稀です。【ようやく息子にきせられた無念を晴らすことが出来ました】が尼崎北署のずさん捜査を断罪した民事判決後の遺族の感想です。

【事件】四輪が尼崎の信号のある交差点で右折途中、直進バイクと衝突事故。直進バイクの運転者は死亡。四輪による飲酒死亡事故で、問題は被害バイクの速度でした。

【刑事裁判】捜査はバイクの速度になぜか重点。警察の依頼鑑定書は時速50〜55`。しかし刑事裁判で時速80〜90`の目撃調書と時速81`の捜査復命書も出現。
まず、目撃者にバイク速度がわかるのか現場で事前確認すると、目撃者は向かって来るバイクの正面の位置。すり鉢上の上り坂を上がるバイクの速度がわかるわけがないと現場確認。
そして目撃者に面談。『速度はわかるわけがない。調書に記載の速度は自分で言ってない』と。目撃調書と捜査復命書がねつ造されたと私達は思いました。捜査復命書の根拠は目撃調書と被疑者のやり直し実況見分数字を使用。事故直後の実況見分は無視。要するに被疑者の言い分どおりにしただけでなく【鑑定数字を大幅に上回る速度でバイクが走行】と報告で、でっち上げたのです。目撃調書で時速80`以上とし、捜査報告で時速81`として鑑定を無効にして加害者救済です。鑑定を否定すべく、目撃供述が根拠とした捜査復命書を無理矢理作成したのが尼崎北暑です。
どうして警察がこんなことをするのか、真実はわかりようがありませんが、加害者側は議員等を通じて署長に口利きをすることもあるというのが常識ですから依頼があったのでしょう。それに応じて、警察が意図的な捜査をしたと推測します。実際処分は警察の思惑通りとなりました。刑事裁判は検事が論告でバイク速度81`と述べたため飲酒死亡事故で執行猶予でした。
なぜ、いまどき岡引捜査か?
科学的捜査であるはずの鑑定書を無視し、こんな『悪代官的岡引捜査』が通用するのか?
遺族は憤懣やるかたない思い。どうしてこんなことになったのかと。『捜査書類は被害者と遺族の了解なしに警察の都合で作られます。刑事裁判は作られた捜査書類で審理され、供述した本人は法廷に出ません。誘導尋問調書も通用します。』と私がなぐさめの説明しても通じません。
判決後遺族は記録を見てますから、怒りで控訴を直訴。S川副検事は冷たく「民事でしてくれ」
と突き放しました。

【民事】―民事でしてくれと言われてもー
が、民事でしてくれと言われても被害者に不利な調書が刑事裁判証拠。戦うことは初めからできません。検事が不利な調書を裁判所に提出済みでは遺族は戦えません。検事の言葉はあきらめろです。検事の立場は被害者と利害が反し捜査側なのです。
調書が信用できないと言っても取り上げないのは、立場からは当然でも、遺族は納得できません。調書がねつ造と告訴や監察の不服申立をする必要もありますが、それでも告訴や監察申立をして効果があるはずもありません。が、しないよりましと思い、監察申立。調書ねつ造で組織ぐるみでおかしいと兵庫県警に監察申立。しかし警察は電話で捜査は適切との回答。交通警察の姿です。
幸いなことに民事裁判は正義感のある目撃者の積極協力を得ましたので、ずさん捜査を弾劾しましたが、もし目撃者に恵まれなければ民事裁判でもずさん捜査とは認定されなかったでしょう。

【背景】なぜ、ずさん捜査がまかり通るのでしょうか。
遺族が一生懸命でも警察の対応はこんなものです。理由は交通事故を軽く考える風潮が底流にあり、犯罪扱いしません。現場はやる気なく事務的です。目撃者を一生懸命捜しません。被疑者の言い分を聞き、書類でまとめるのが死亡事故捜査で、死人にくちなしと、誰も責任を負わないシステムです。
では捜査に民主システムがあるか。これもない。権力に対するチェックシステムです。例えば権力の乱用のため3権分立があり、捜査権力のチェックが必要のはずですが、日本は捜査権力は野放し。たとえばドイツは警察の調書は信用できないと直接審理が原則で書面審理でありません。そのうえ、警察の捜査終了後送検時段階で、被害者に捜査記録開示をします。捜査情報開示を捜査時にすることで、被害者がチェックできます。捜査権力を疑い、2重にチェックする仕組みが完備されているのです。ところが、日本は何もありません。
日本は書面審理で、かつ捜査情報開示時期は事件終了後です。後のまつりが日本で捜査。警察も検察も裁判所も被疑者の言分の書面で解決です。見せない、チェックできない、司法が警察をかばう、検察が軽く処罰する、こういうシステムがあるから死人に口なしの捜査が横行するとなります。死亡事故捜査で目撃者がいても警察がこれを歪める捜査です。

逆に【目撃者の法廷証言を無視し、あくまで警察のねつ造調書が正しいとする判決】。
最近、もう一つ民事裁判で目撃調書を争う事件の判決をもらいました。この事件も冒頭事件と同じく、目撃調書が事故から長期間経過後作成され、後日の民事裁判で目撃調書はねつ造と目撃者が法廷証言してくれた事件です。どちらも目撃者は供述調書と異なる法廷証言をしました 冒頭事件は『調書は信用できず、民事法廷の目撃証言が信用できる』と大阪地裁が判決し、事故から40日後作成の目撃者調書は信用できず、目撃者の法廷証言を信用するとしました。
ところが、この事件は、目撃者法廷証言は信用できず、目撃調書を信用できるとした大阪高裁判決で、目撃者法廷証言は4年半後で信用できず、調書を信用するとしたのです。調書は事故から1年半後作成なのに目撃調書をあくまで根拠としたのです。
 どちらも調書と異なる内容を、法廷で目撃者が語るのに、一方は法廷証言を信用できないとし、他方は法廷証言を信用できるとした裁判所をどう考えたらよいのか? 目撃者は一旦調書で警察で目撃事実を見た事実を語ってますから、民事法廷でしゃべったことが真実であれば目撃調書は虚偽となる。警察の目撃調書は捜査の前提なので、目撃調書が嘘となると刑事手続きがひっくり返ります。このため警察の捜査を、遺族が争う事を司法は認めない傾向です。書面審理主義です。調書があれば調べた警察官や目撃者を法廷で再度聞きません。冒頭の判決は異例なのです。捜査がでたらめと被害者が訴えを起こしても、書面審理を徹底すれば遺族敗訴です。『捜査は社会秩序のためで被害者のためにあるのではない』の最高裁判決がずさん捜査を支え、システム連動です。
書面審理に対するのがドイツの直接審理です。捜査調書が作られても全面信用せず、目撃者や警察官を法廷で再度聞きます。なぜ直接審理か。捜査権力への疑いからチェックが必要なのです。
 日本の司法は捜査権力のチェックに無頓着で、チェックしない制度です。書面審理徹底の裁判所は真実がどうかは後回し。書面さえ出れば真実はどうでもいい。このためもあり、法廷でメモを取られることさえ嫌がり、10数年前までメモもできませんでした。傍聴でメモ出来るようになったのは外国人記者が憲法裁判で勝訴した結果です。つまらない制度は他もあり、遺影持込みも原則禁止。なぜか理不尽です。裁判に心理的影響をするが裁判所理由で、反面、書面証拠であれば、どんなおかしい書面も通用する。おかしいですね。被害者は捜査で排除され、刑事裁判や刑事処分も当事者で参加できる制度でありません。だから民事裁判こそ被害者が参加できる審理の場なんですが、書面だけを真実としますから、目撃者を捜して違う証言を得ても、目撃者の真証言が採用されるのは難しく、裁判所は被害者に非常に冷たいとなります。被害者にとって日本の裁判は真実追及の場ではなく、茶番劇かもしれません。
刑事裁判で、被害者を当事者として扱う必要が生じる所以です。

【ずさん捜査を生む原因】
いずれにしても、ずさん捜査がはびこるのは原因があるからです。腐敗した構造です。
@法務省が交通事故を犯罪扱いしないので警察は被疑者の言い分に従った捜査書類を作成する。
検察も監視役の仕事をしていない。正義感のない副検事が遺族ににらみをきかせる。
A捜査情報が捜査段階で開示されないので、誰も捜査の適正をチェックせず、手抜き捜査やねつ造捜査がまかり通る。一旦終った捜査は、クレームがあっても組織的に隠蔽ねつ造する。
B刑事裁判が書面審理主義であるため真実を求める警察官や検事や裁判官がいない。このため捜査官はずさん捜査をしても、書面が真実とされ、真実が追求されず、ますますずさん捜査がまかり通る。

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産経新聞 平成17年4月21日(木)朝刊 
■尼崎の交通死 警察の捜査結果否定
大阪地裁 被害者に速度違反なし
 兵庫県尼崎市で平成14年、高校生のオートバイとワゴン車が衝突した事故をめぐり、死亡した高校生の両親(大阪府豊中市)がワゴン者の運転手に約8000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁の平井健一郎裁判官は20日、運転手の過失を認め、約4000万円の支払いを命じた。争点となったオートバイの速度について、約80キロで処理した警察の捜査結果を否定、高校生に大幅な速度違反の過失はなかったと認定した。
原告側代理人の松本誠弁護士は「警察は酒気帯び運転だった運転手の供述をうのみにし、目撃証言を誘導して、被害者の速度違反のように処理した。この裁判で『死人に口なし』のずさんな捜査が証明された」と評価している。
事故は平成14年8月の深夜に発生。高校二年のTYさん(当時17)が知人女性をオートバイ(400cc)の後部座席に乗せ、尼崎市内の県道交差点を直進し、対向車線から右折してきたワゴン車と衝突して死亡、女性も重傷を負った。
県警科学捜査研究所はオートバイの速度を「50〜55キロ以上で上限は推定困難」と鑑定した。しかし尼崎北署はワゴン車の運転手の供述や目撃者の証言から約80キロで処理し、運転手は平成15年3月、業務上過失致死傷罪などに問われた刑事裁判で執行猶予付き判決が確定した。
今回の判決は運転手の供述について「二回の実況見分で変遷しており、酒気帯び運転だったことを考えれば採用していいかは疑問」と指摘。目撃証言からも「警察から『80〜90キロぐらいか』と聞かれ、そうかもしれないと答えたものが調書に記載された」と信用性を否定し、オートバイに同乗していた女性の証言などからオートバイ速度を62キロ以下とした。

産経新聞 平成17年4月22日(金)朝刊   
■社会部発
「息子は悪くなかったことがようやく司法の場で証明された」。電話の向こうの遺族の声は、安堵感に満ちていた。オートバイを運転中、安全確認を怠ったワゴン車と衝突して死亡した高校生のTYさん(当時17)の両親がワゴン車の運転手に損害賠償を求めた訴訟。20日の大阪地裁判決は、Tさんを大幅な速度違反で処理していた兵庫県警の捜査を否定した。「死人に口なし」の安易な交通事故捜査に警告を発したものだ。スリップ痕や車輌の損傷から、県警科学捜査研究所はオートバイの速度を「50〜55キロ以上で上限は推定困難」と鑑定した。この場合、通常50キロ程度と認定するのが慣例だが、尼崎北署は、ワゴン車運転手の供述を根拠にオートバイ速度を約80キロで処理したのだ。
検察も警察捜査を追認した。高樹の「速度違反」が影響したためか、ワゴン車運転手の刑事裁判では、飲酒運転厳罰化に逆行する執行猶予付きの"温情判決"が下された。
「反論できない息子に責任をかぶせた捜査だ」。名誉回復を求める両親と代理人松本誠弁護士の闘いが始まった。裁判記録を入手し、運転手供述の不自然な変遷を突き止めた。目撃者の調書にも疑問を抱き、改めて探し出して面談。「オートバイの速度は分からない。警察官に『80〜90キロでは』と聞かれ、現場での音から判断して『それぐらいかな』と答えた」と、警察の誘導をうかがわせる重要な証言を得た。執念が実り、判決は両親の主張を採用、オートバイは62キロ以下と認定して運転手に約4000万円の支払いを命じた。
なぜ、このような捜査が行われるのか。松本弁護士は「日本は死亡事故の加害者の実刑率が極めて低い『加害者天国』。交通事故を犯罪扱いしないので、捜査に対する現場の士気とモラルが低く、加害者の供述に沿った手抜き捜査が横行する」と指摘する。今回のケースは「氷山の一角」だろう。世間の耳目を集める凶悪事件だけに被害者が実存するわけではない。一つひとつの死亡事故にも悲嘆に暮れる遺族がいるのだ。【牧野克也】