飲酒運転者によるひき逃げ事故をどう考えるべきか 平成16年11月25日
 

 『ひき逃げや重ね飲みなど飲酒運転の罪証隠滅工作をしているにもかかわらず罪が軽くなっているのはおかしいのではないか、飲酒運転厳罰化の弊害か、との議論があり、マスコミからのコメントを求められました。以下はどう考えるべきかヒントです。

@ひき逃げや重ね飲みすることで刑罰が軽くなってしまうのはなぜか
 法定刑の問題が背景にあります。飲酒運転はアルコール検知が必要な罪で現行犯でなければ成立しません。最低呼気1リットル中、0.15mgの検知量があることが必要で、事故時のアルコールが必要。検査が1時間遅れれば0.1mgのアルコールが減少し、検知時に0.1mgしか出ないと2時間前に0.3mgと推定されても立件できません。一晩経てばアルコールは影も形もない。だから飲酒運転現行犯を免れようと後で出頭するケースが多い。重ね飲みは事故時のアルコール量を特定できなくする意図によりなされるものです。立件妨害ですから実質的には悪質ですが、被疑者については証拠隠滅罪の適用がないため逃げ得となる構図となります。しかし、この問題は法定刑と運用面に分け考える必要があります。

A法律の問題点はどこになるのか、
 危険運転致死傷罪ができましたが、ひき逃げすれば危険運転致死罪の適用を免れるとなってしまうのが問題です。ただ危険運転罪ができる前にも、飲酒運転を逃れるため、業務上過失致死傷罪になるという同じ問題がありましたから、今回始まった問題ではありません。

B実際これらのひき逃げ、重ね飲みをすると、検察は立件することは難しいのか
 形式的には立件は難しい。実際は業務上過失致死罪。ひき逃げとして処罰されることになる。被疑者自身の重ね飲みは証拠隠滅罪としては処罰されない。
 事故時から検知までに飲んでいない事が必要で重ね飲みで事故時のアルコールをごまかされれば立証が難しい。事故時のアルコールと特定されないからです。だが重ね飲みをした被疑者が得するのか、ひき逃げをすれば得するのか、ということは別に考える必要があります。

C検察、警察の捜査に問題はないか
飲酒運転は常習犯で、故意犯だという認識が捜査側にあるか、が一番の問題です。
 事故を起こし捕まったら、という不安は常に飲酒ドライバーは考えている、と思い捜査をすべきが捜査の心得です。例えばアルコール臭い消しは飲酒ドライバーの常備品と言われる。ひき逃げや重ね飲みはその延長で、飲酒ドライバーによる故意犯罪であり悪質です。すると、飲酒運転の事故の場合『事故自体は過失犯だが、飲酒運転は故意犯だから、危険運転致死罪が厳罰化された犯罪』という図式にヒントがあります。飲酒運転者が逃げれば、飲酒運転では処罰されず、当然危険運転でも処罰されないため、業務上過失致死と、ひき逃げで処罰されますが、現行で処罰はあまりに軽い、となります。しかし、よく考えるとひき逃げは事故発生を認識し逃げるからある意味で故意犯ですから、故意犯ならば処罰もある程度重くした方がよいと現行法ではしており、ひき逃げの刑は業務上過失致死傷罪の刑と同じ5年以下の懲役禁固または50万円以下の罰金と、一定の重い罪です。問題は運用面にあります。

D運用の問題点
ひき逃げが厳しく処罰されているのか、というと実はそうではない。警察が一生懸命ひき逃げで捜査をしても、検事がひき逃げで起訴をしないケースがありました。私の担当事件でも、検察審査会が不起訴不当決議をしたのが2件あります。検察はひき逃げに甘いのです。検察の運用面に問題があり、この問題の延長として、ひき逃げで起訴をしても求刑を厳しくしません。実際は死亡事故とひき逃げがあれば刑は7年半まで求刑できますが、実際の求刑は2〜3年が上限です。実際の運用面で、検察が厳しくできるのにこれをしない検察の姿勢が問われる必要があります。