重度後遺症裁判のために(18) 平成16年8月8日
 

重度後遺症裁判のために(17)の続き  判決評論
(自動車保険ジャーナル平成16年7月22日引用)ごめんなさい。
                  
判決について

1 高額認定
判決は支払済み金員を含めた認定損害3億円を越えた高額事例です。
事例は、頭部外傷の後遺障害1級3号。神経系統機能又は精神に著しい障害を残し常時介護を要し症状固定後も通院リハビリ継続中で、搬送タクシーでなければ通院できない状態です。

2 将来介護費
重度後遺症特に意識障害の場合に、将来介護費や将来治療費の認定について最近はきめ細かい認定がされる例が多くなってますが、本件もその一つです。
判決は介護費について、妻が就労できる期間と就労困難に分け、前者は1日1万円(家族)と月額20万円(職業ヘルパー)、具体的に1日1万6666円、後者は、妻が就労出来ない時期から職業介護1人とし1日あたり2万6666円を認めました。
さらに介護者支援制度等との関連も争点でしたが、『公的扶助や公的ヘルパーの利用は強制されるものではなく、将来も公的扶助が継続される保証もないので減額されるべきでない』としました。
全体の文脈から読み取る限り控えめ認定の法理に従いながら、意識障害被害者やその家族の声を汲み取っているように見受けられます。たとえば多くの意識障害家族が行なうマッサージについて、判決は『生存のため筋肉拘縮予防のリハビリを欠かせない』と指摘し、マッサージ労力を将来的リハビリの中心して、識障害者介護実態を把握しております。マッサージが必要不可欠である点を『生存の為』としている点、評価すべき点と思います。本件は家族介護費について相当高額とした点は、相当の体力が日常的に必要で尋常ではないことが法廷でもわかるほどでした。
但し、ヘルパーがいない時の家族の終日の労働や終日の監視の労働を考えれば、判決の認定額でもその労働の評価は、原告代理人とすればあまりに低額で、赤本では家族介護の基準が1日8千円とされていますが、実情に沿う認定が必要かと思います。
重度後遺症家族の介護現場を見ていると、一般に家族介護が職業介護より低額とされる実情には違和感すら覚えます。『職業介護の場合が家族介護より高額なのは専門的でプロだから』とされる法廷の認識は、実は不合理な場合もあると思います。
1) 例えば介護保険制度での老人介護では等級により介護単価が違いますが、意識障害の場合は常時監視と常時の付添いや常時体力酷使とが必要な割に、かかる労働を職業介護者は嫌がる現場もあります。高額な老人介護をしたほうがいいから、希望しても来ない場合が多いのが実情です。 
2) 医療行為とされる介護が多数あることに配慮が足りません。たとえば意識障害に伴なう痰の吸引や体温測定、血圧測定等、多くの介護作業が医療行為とされ、職業介護者の医療介護作業が全面禁止されていますから意識障害介護に熱心な職業介護者は皆無で、家事介護しかできません。難しい医療介護を伴なう介護を家族が行い、家事しかしない介護者が高額とされるのは矛盾です。たとえば、食事介護では食事に伴なう痰やよだれが出てきて、痰取り作業やよだれを取る作業必要なため、食事介助をするのは家族でなければ出来ないのが実情です。家族介護の大変さが容易に想像されます。
3) 家族介護を低額とすることは、その分家族に負担を強います。家族の一員が事故の犠牲になるだけでなく、他の家族の人生も低い評価とされ、家族の労力が犠牲になるのです。家族だから面倒を見るのは当たり前との感覚が有るように思え、封建的な感があります。
すると、家族介護費が本当は高額となる場合もありうるのですが、形式的に『職業介護』が高額とされる実情には、被害者家族にしたらたまりません。

3 将来治療費と交通費
意識障害者の場合、生命維持のためのマッサージが必ず必要とされますし、また日常的な健康管理のための通院も必要となります。形式的には前者はリハビリとされ、後者は医師の行為とされます。しかし、意識障害被害者にとって、症状固定後も生涯にわたってリハビリは必要です。そのための治療費や交通費は損害と認定されるべきで、本件は正面から損害と認定されました。
本件では平均余命も争点の一つでした。最近ではこれを健常者より短くする判決は見かけにくくなりましたが、争点となることがよくあります。判決はこの点『献身的手厚い介護を受け、週に1回診察目的で通院により危険性は防止され、仮に異常が生じても早期に発見され、医療機関の処置等を受けることが期待できる状況。現在程度の介護が継続されるのであれば平均余命を減じるべき事情は認められず』として平均余命の認定をしていますが、この理由は裏を返せば、よく介護をしなければならない、よりよき介護こそ必要だとしています。また、よりよき介護が必要である』という点から、『逸失利益の計算で生活費控除はしない』とも認定している点も特徴的です。重度後遺症被害裁判は、被害者にとっても家族にとっても、介護の大変な毎日を見て欲しいという裁判です。 判決は家族による暖かい介護の視点こそ大事としている点で意義のあります。

4 慰謝料
慰謝料は事故後の加害者側の対応を、悪質として慰謝料増額300万円と認め、全体の慰謝料も総額3800万円と異例の高額認定となった点に意義があります。日本は制裁的慰謝料を認めない、といわれていますが、どんな場合でも慰謝料は初めから決まっているとしたら裁判の意味さえありません。そこで認められたのが、『慰謝料増額事実』認定がこれに代わるものです。本件は加害者側のまずさもあり増額理由も明確でした。だが、事故後の加害者側から受ける2次被害は実は多いのです。事故被害だけでなく、加害者側の対応や交渉レベルでも、慰謝料増額される場合があると認定した点で意義があります。

判決内容のポイントは次のとおり。
(将来介護費1億0737万0183円認定)
原告Aの症状、原告に対する介護状況に照らすと、原告Aは、24時間常時、食事の経口摂取から褥瘡を防止するための体位変換まで、日常生活全般にわたって全面的介護を必要とする状態にあり、さらに、生存のためには筋肉の拘縮予防のリハビリが欠かせないなど適切な全身管理を要求される。原告Aは体格も大きく、入浴介助等の肉体的負担は大きく・発語がなく意思疎通が図れないため、自己の状態や希望を訴えられず、その上、食事や水分補給の介助では、肺炎につながる誤嚥の危険性もあるなど・介護者にとっては精神的負担も大きいものと認められる。
以上の点に鑑みると、原告Aの介護は、原告B1人だけの力では賄い切れず、今後も、特に労力を要する入浴介助等につき、職業付添人の補助を必要とするものと認められる。
なお、被告は、公的ヘルパーの派遣や介護保険等、公的福祉の活用を前提に、将来の介護費用を算定すべきであると主張するが、これらの公的扶助は、常に利用しなければならないというものではないし、これらの公的扶助が将来にわたって確実に現在と同様の措置が継続されるという保証もないから、将来の介護費用の算定にあたって、公的扶助として受け得る介護費用相当分を考慮することは相当ではない。
ア 平成12年1月23目から平成46年2月16目まで
原告Bが67歳になるまでは、付添介護人として就労可能であるから、原告Bが主たる介護を行い、職業付添人がそれを補助すると見るのが相当である。そして原告Bの付添介護は、前記認定介護内容、拘束時間等を考慮すると、1目当たりの介護費は1万円が相当である。また、原告Aのために週5目職業付添人に介護を要請し、そのためーー 、1月当たり20万円の範囲で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。以上により、この期間の介護費については、期間を34年間、中間利息控除率を 5%ライプニッツ係数により計算すると9796万7045円となる。
【計算式】=97,967,045円
イ 昭和46年2月17日以降52年1月23日まで
症状固定日平成12年1月23目における原告Aの推定余命は40年であるから、介護費は、平成52年1月23目まで必要となると認められるところ、この期間の介護は、職業付添人1名によってのみ介護を行い、1目8時間として、1目当たりの介護費は、換算すると、2万6666円となる。そこで、この期間の介護費は、中間利息を控除して計算すると940万3138円となる。
【計算式】=940万3138円