事件簿 受給開始前の年金の逸失利益は?
(受給開始前に被害者が死んだら年金は駄目?)
平成16年2月20日
 

久しぶりの民事の事件簿。被害者と裁判官の各常識の違いがわかる事例を紹介します。
裁判官って、なんと非常識かと思う事例です。
年金が世間の注目を浴びてます。今まで司法の世界で軽んじられてきた問題であります。
40歳以上の死亡事故では、必ず問題となる逸失利益に、就労所得以外に、年金所得問題があります。かつて自賠責金員に対する確定遅延損害金のように、これを訴状に記載しない弁護士も少なくない,という問題であります。厚生年金を20年以上かけてきた亡き被害者(受給開始前)遺族が年金の逸失利益を含む損害賠償請求訴訟で、これを否定する東京高裁判決があることを知りました。ビックリです。仔細は次の通り。

53歳で死亡女性の民事訴訟を提訴した京都地裁判決が平成15年11月出て終結と思っていましたら、損保から大阪高裁で控訴をされました。特に損保弁護士が争う点は『受給開始前の年金の逸失利益がない』とする点です。 京都地裁は『掛け金を支払済みである以上、将来支払われるべき年金は当然に逸失利益となる』と結論でした。が損保は、東京高裁の判例と違うので、判例変更をしろと控訴したのです。
平成13年1月25日の東京高裁判決(昭和57年1月25日の浦和地裁の判例も同じ)。こんな判例を高裁の裁判官が合議で出すとは、被害者無視も甚だしい。読むとビックリです。
【老齢基礎年金についての逸失利益 一審原告らは、亡昌子は、昭和14年4月1日生まれであり、本件事故時までに国民年金の受給に必要な保険料を納付し、受給資格を有していたから、本件事故に遭遇しなければ、満60歳から26年間前記年金を受給することができたとして、亡昌子は本件事故により前記年金の受給を得られなくなった点において逸失利益があると主張する。しかしながら、本件事故時において、亡昌子において、いまだ前記老齢基礎年金の受給権を取得していなかったのであるから、その相続人である一審原告らがその受給権を取得することがないのであって、たとえ、亡昌子が将来生存していれば、前記年金の受給権を取得する時期が到来することがあろうとも、現実に受給権を取得して前記年金の支給を受けていない本件においては、前記年金の給付額相当額をもって、本件事故によって亡昌子に生じた逸失利益の喪失による損害であるとみることはできない】と。
要するに、死亡時は受給開始年齢60歳になってなかったから、駄目としているのです

この東京高裁は『本件事故時、老齢年金の受給資格を取得していなかった』として、受給開始前に被害者が死亡した事例で、逸失利益を否定してますが、高裁の良識かと疑います。なぜなら、年金受給は該当月数の年金支払い(例えば20年ほど)をしていれば、当然に資格者とされ、年金給付の開始年齢に達して受給されるからです。東京高裁判決は、受給資格は既にあるのに年金の逸失利益を否定した、という、いわば遺族泣かせ判決です。東京高裁の言う受給資格年齢は、受給開始の年齢にすぎません。勘違いなのか、非常識なのかどちらでしょう。

年金に関する最高裁を中心とした判例の流れは次の通り。すこしはましですね。
【平成5年には、大法廷において地方公務員等共済組合法による退職年金について逸失利益性を肯定し、続いて普通恩給と国民年金についても肯定する判断を示した。身体障害の発生を理由として支給される障害年金や労災保険の障害(補償)給付としての年金は、老齢年金や基礎年金と異なり、障害の存在という特別な事情のある場合に給付される生活保障的色彩が強い給付だが、前記平成5年の最高裁判決以降も下級審裁判例には肯定例と否定例とが存在したが、最高裁は平成11年には、障害基礎年金、障害厚生年金という年金制度加入者本人の年金ではあっても、社会保障的色彩の濃い年金についても逸失利益を肯定するに至った(最判平成11年10月22日)。このように、老齢年金など本人の老後保障に関する平成5年の最高裁判決では、給付自体が遺族にあたる親族の生活保障目的もあること、また、障害年金に関する平成11年の最高裁判決では保険料の支払が存在し年金給付が対価性を有することが指摘され、公的年金のほとんどのものが逸失利益を肯定される論拠を持つことになった(しかしながら、この反面、遺族年金は、その例外ではないかという印象を受ける状態となったことも確かである。すなわち遺族年金は、家族の生活保障のためという色彩はほとんどなく、あくまで遺族本人のためのものであって一身専属性が強い。また、受給者は保険料を支払っておらず年金給付は対価性がないか極めて希薄である。)】

年金の逸失利益を認める判例の底流にある考え方は、年金給付の性質は賃金の後払いであって、退職金について逸失利益を認める以上、年金について逸失利益を否定する理由にはならないのです。例えば、退職金とのバランスで考えれば、年金給付が開始されてなくとも、既に年金掛け金は支払済みである以上、支払掛金対価である年金給付は当然に逸失利益となるのです。そして、年金給付が開始されていない場合に、年金給付を逸失利益と認めるかどうかは、蓋然性から判断すべきなのである以上、前記東京高裁の判例はおかしいのである。まるで就職先が損保と決まったような裁判官馬ばかりかと疑う。かかる点を判断基準とすれば、年金給付開始前に死亡したものでも、当然に年金給付の逸失利益性は認められるべきものである。
ちなみに、私の最近担当事例でも、平成14年10月11日言渡し大阪高裁判例【年金の給付前死亡で就労所得以外に年金給付を加算された46歳女性有職者事例】と【年金給付前(62歳主婦)死亡で就労所得以外に年金給付を加算した事例】平成13年12月26日大阪地裁判決があります。
平成15年11月21日言渡しの京都地裁判決も、肯定判例の立場に立ち、年金の性質を鋭く分析し『老齢厚生年金及び老齢基礎年金は、いずれも保険料が拠出されたことに基づき給付されるものであって、給与の後払いないし掛け金の払い戻しとしての性格を具備するものであるから、これらの年金給付については、逸失利益性を肯定するのが相当である。』としたものですから、高裁裁判官はよもや間違うことのないよう、世間の常識にもとづき判断して欲しいものです。