重度後遺症裁判のために(15)
重度後遺症被害者の惨状−後編−
平成15年12月23日
 

被害者の声(4)
【捜査情報を開示しないことへの不信】
国は起訴率1割に象徴されるように、交通事故を犯罪扱いをしてません。しかし、捜査情報の開示面では犯罪扱いをし、犯罪に関する刑事訴訟法上74条を根拠に、『人身事故捜査も、犯罪捜査なので、捜査情報が開示されれば捜査に支障が生じる』との理由から開示しないため、被害者や遺族は捜査記録が加害者の供述に沿うように作られていても、何もクレームをつけられない仕組みとなっています。ここに交通事故遺族の更なる悲劇があります。遺族が知らぬうちに初動捜査で加害者の言い分にのみ沿う書類が作られても、やる気の無い捜査で事故事実が捻じ曲げられても、遺族はそれに従うしかありません。加害者の供述に沿う警察や検察の不当な捜査が日常化し、警察や副検事のやる気が無くなっているのに、捜査中の捜査記録が開示されないため、ずさんな捜査がますます増えてます。被害者遺族は孤独に戦う場合が多いのです。
ところが加害者側はそうではありません。事故直後から始まる保険金の支払交渉は、警察のOBらが就職している損保リサーチ会社を通じて任意保険会社が入手する警察の捜査情報に基づき、損保側に優位に進められます。加害者側には垂れ流しの捜査情報があり、交渉も自由にできるのに対し、被害者側には一切伝わらない中で、不利益で一方的な交渉を強いられています。
この一方的で不平等な取引や交渉を放置している国の姿勢は極めて問題です。欧米では交通事故の捜査情報は、初動捜査直後に開示されているのが実情です。事故が多発し、警察の捜査に限界もあり、人身事故は欧米でも非犯罪扱いをしてきている面では同じですが、捜査情報開示面は開示に積極的な欧米と異なり、この面で日本は後進国家です。
そのため、遺族や家族は、必死で目撃者を探したり、情報を集めなければなりません。特に被害者が子供の事故では、その親は自分にも責任があるのではないか、と毎日が自分を責める日々となり、さらに捜査情報も開示されないことで、とても不安な日々を送らざるを得ず、親子や夫婦の家族同士でもちょっとしたことで喧嘩したりする雰囲気となります。
以上のように、捜査情報は被害者に見せなくとも良いとされていますから、ずさんな捜査でも通ってしまい、後で事故の真相が違うと言っても何もできません。後日の民事裁判ではこのような苦しみが被害者を待っています。

被害者の声(5)
【被害者の声によって出来た制度】
捜査情報が開示されないことが、交通事故が被害者にとって軽く扱われる風潮を増長させ、数々の悲劇を生んでいます。裁判所や弁護士も『たかが交通事故』といった態度で事件をマニュアル化し解決するようになりました。しかし、あまりにも交通事故が被害者遺族にとって軽く扱われているのではないか、悪質な運転でもわずか2年や3年の刑はおかしいのではないか、という声が交通事故被害者遺族から出て来るようになり、飲酒運転厳罰化(罰金上限が50万円に引き上げ)や危険運転致死罪(処罰上限5年が15年に引き上げ)の立法化がなされました。これらは交通事故遺族の声によって、できあがった法律ですが、その背景や原因は以上に述べたとおりです。
飲酒運転による東名高速道路の2女児死亡事故はあまりに有名ですが、この運動の署名活動をされてきたのは被害者の井上さんご夫妻であり、この運動を支えてきたのは、「被害者の会」や「命のメッセージ」のメンバー遺族です。決して司法関係者や弁護士ではありません。遺族同士が連絡しあったり、署名活動を展開したり、個別の事件の支援活動に互いが関わるようになってきた成果です。そして、今まで被害者を排除してきた裁判の手続きや捜査過程にも、被害者自身の生の声が出るようになりました。今までなら、被害者遺族は泣いて悲しむ、というイメージでしたが、今は戦う遺族となってきたのです。
また、加害者は刑の減刑をしてもらうため無遠慮に被害者宅を訪れたり、また損保会社は無遠慮な示談呈示をするなど、その度に遺族は加害者側との慣れない交渉をしてきたのですが、最近では被害者は戦わなければ二次被害に遭うという思いが強くなってきております。
そのため平成12年に被害者保護法が制定され、刑事裁判でも捜査記録を閲覧謄写して、早い段階で事故内容を把握することができるようになり、かつ加害者の言い分に反論する意見陳述制度もできたのです。被害者も加害者と同じく発言する機会を公平に与えよとの声がその背景にあります。

被害者の声(6)
【交通犯罪被害者の支援実態】
交通事故被害者の機関として交通事故紛争処理センター等があるとされていますが、実は遺族はかかる処理機関や弁護士や警察や副検事などの処理システムによって、多くの二次被害を受けている実情にあり、司法システム自体への不信もあります。そのため遺族自身による自助努力の支援組織が次々と作られました。現在、交通犯罪被害者支援活動は、全国交通事故遺族の会、TAV交通死被害者の会、北海道被害者の会といった支援組織に所属する遺族自身が行っています。なぜ、遺族がこういう支援組織を作るかといえば、被害者や遺族の悩みについて被害者側の立場で考える機関が無いという点につきます。
今まで警察や検察の交通事故捜査のずさんさが表面に出て来なかったのは、実は被害者を排除するシステムに原因があったのです。例えば、被害者の相談は損保弁護士がほとんどしているため、事故態様を争い、刑が軽いとか、捜査が間違っている等という被害者の声はこだわりに過ぎないとされてきたのです。損保弁護士は、加害者寄りのスタンスで事故を見ますし、事故情報も損保リサーチ等から入手したものによりますから、捜査がおかしいという被害者の声は伝わらず、封印されてきた経過があるのです。
犯罪被害者支援や交通事故被害者支援は世界的な流れなのですが、実際は、被害者になってみないとわからないと言われています。そもそも刑事手続きなどが被害者のための制度にはなっていないのです。捜査では被害者に何も知らされず進展し、刑事裁判も直接当事者であるはずの被害者は第三者として扱われ、気がついたときには加害者は罰金で終わっていたり、かたや民事賠償では、突然損保会社の担当者が来て交渉が進められ、知らないうちに金額が決まっていくといったように、被害者が声を出せるシステムとはなっていません。そのため、排除された被害者の権利保護の必要性が叫ばれ、被害者保護法などができているのですが、運用面を含め、被害者の権利がまだまだ充実していないのが現実です。そのため、孤独な被害者や遺族を支援するために被害者の会を作っているのです。署名活動が最近盛んなのは、そういう背景があります。

被害者の声(7)
【被害者の権利充実のための今後の課題】
被害者の望む厳罰化や司法参加への道は少しずつですが開いて来ました。しかし、今一番被害者が望んでいるのは、事故直後の死亡原因や加害者の言い分を、すぐに知ることです。捜査情報、特に捜査直後になされる実況見分書類の開示は是非実現させてもらいたいと願います。 被害者側は捜査には参加できませんし、被害者が死亡している場合は『死人にくちなしの捜査』がなされているのではないかと疑い、あるいは子供の死亡事故では、情報開示がされないことで、母親である自分にも責任があったのでないか、と心が痛む毎日が続き、被害者遺族は、警察に原因を聞いたり、事故現場に通ったりと、膨大なエネルギーを費やす日々です。このように孤独な被害者が多い中で、国が救いの手を差し伸べないというシステムとなっています。既に述べたように、国は交通事故全般について、もはや犯罪扱いをせず、極めて事務的処理で不起訴件数を急増させてます。そうであれば、犯罪扱いをして捜査情報を開示しないというのは、筋がとおりません。国は交通事犯について犯罪扱いをしない政策をとりながら、捜査情報の開示面だけは、犯罪扱いをして情報開示しないという矛盾し誤まった政策をとるため、捜査は形式的でずさんさになっています。捜査情報を開示しないことで、多くの被害者遺族が孤独な戦いをされている例が多いのです。捜査情報の開示は早急に実現すべきです。

被害者の声(8)
【重度後遺症被害の悲惨】
重度後遺症被害の悲惨さは、捜査と医療とが交錯する部分で発生します。

  1. 重度後遺症被害を含めて、警察は病院に対して、早めの診断書を要求します。
    『全治までの見込み』の診断書でいい、とされています。ところが、これは医師は見込みで診断はできないため、躊躇することもあり、少な目の診断期間を記載します。植物状態被害者でも、『3ヶ月以上の治療の見込み』『6ヶ月以上の治療の見込み』等記載するしかありません。しかし、検察がこれを見た時、被害の実情を追跡捜査をしませんから、軽く扱い、罰金刑となる場合が実に多いのです。半年後や2年後の症状は捜査記録にはまずありません。
    医師が診断書を書く場合、家族が一生介護しなければいけないとは書きません。捜査直後は必死に治療しているからです。でも捜査に出す診断書中に、『介護を一生要する可能性がある』と書けば、加害者の刑も実態に合致したものとなるのです。控えめに書く診断書のために、多くの被害者や家族が泣くことになるか、考えてもらいたいものです。重度被害の場合には、被害は実は2人以上の人生を実質的に奪うこととなるのです。今の処罰システムは医師の診断書で左右される面がありますから、被害者家族の失う人生等も考慮した診断書を記載してもらいたいものです。
  2. 重度後遺症被害者の場合、病院の多くは3ヶ月で退院を迫り、家族は次の病院を探し、結果転々とせざるをえません。このことによって、警察も被害者や家族に聴き取りできず、不起訴や罰金で処理される例が多く、また家族も警察の聴取どころではないのが実情です。また、リハビリ分野でも保険点数上の問題があり、回復の見込みが薄い場合は平気でリハビリを打ち切ると聞きます。例えば、経管栄養なら点数になるが、口から食べさせると点数にならないため、口から食べると大いな刺激になり脳にとっても回復への第一歩であるとは言っても、それには誤嚥の危険性があるからと言って認めようとしないとも聞きます。
  3. 完全介護体制が今の病院にはあるはずですが、実際には、家族が介護の手助けや実際の看護をしている有様であり、完全介護とは名ばかりの病院が多いと聞きます。このため、家族は警察への捜査協力さえ出来ず、後に加害者の供述に沿う捜査となっていたことを知り、後悔するのです。このような介護についての家族の負担を考慮してもらいたいと思います。
  4. その他、裁判において、時々、直接患者の状態を診ていない医師から「意見書」が出ることがあります。重度後遺症事例では遷延性意識障害者の余命が短かったり、高次脳機能障害者の障害等級を低くしたりする場合も多いです。これには実情を知らない意見が多く、閉口します。
    これは、重度後遺症の家族の会より聞いた話ですが、回復したときは、「奇跡だ!」を連発する病院が多いそうです。ある会の高次脳機能障害の家族は皆そう言われたと言います。
  5. これは捜査とは関係がないことですが、事故直後の急性期(通常3ヶ月)は、リハビリが必要な時期であるにも拘らず、損保会社が、個室料は払えないと言って、介護をする家族に「いらぬ心配」を平気でさせ、病院も必ずしも被害者側に立った対応ではありません。急性期は呼吸や栄養管理のみでOKとし、リハビリはいらない、という姿勢が病院にあるように感じます。できればリハビリも早期にしてもらいたいというのが、家族の強い意向です。