重度後遺症裁判のために(14)
定期金賠償方式と一括賠償方式との選択
平成15年8月25日
 

訴訟選択   定期金賠償方式と一括賠償方式のどちらがいいか?

1 重度後遺症訴訟において、かねてから議論されてきたのが定期金賠償方式です。
その定期金賠償方式に関して、最近判決2つが出ました。
(1)1死亡事故では訴訟提起すらなかった定期金賠償方式の採用。
(2)重度後遺症事件での定期金賠償を求め、裁判所が一括賠償方式とすることの可否。

(1)死亡事故損害のうち逸失利益に関して、遺族が一括払いを求めず、定期金支払いを求めたらそれに拘束されるとの判例が出ました。
平成15年7月24日東京地裁で言い渡された2女児死亡事故の判決は、18歳になる年から15年間、全労働者生涯平均賃金から生活費控除した定期金支払を認めました。理由は処分権主義です。一括払いか、定期金かどれを選ぶかは被害者の勝手と。これまで請求の事例がない珍しい訴訟と思っていたら、それが通ってしまった。それが私も含めて一般弁護士の感覚です。何よりこれが認められたのがすごいのは、中間利息論5%論を裏から突破したことです。15年支払だと、3%説と近くなる。死亡事故訴訟は、中間利息論を展開する必要がなくなるわけです。平成15年7月24日の判決。
(2)(重度後遺症事故)「定期賠償に変更」と判決 交通事故訴訟で東京高裁
交通事故で植物状態になった女性(48)と家族が、加害者である千葉県東金市の男性に約1億2000万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁の鬼頭季郎裁判長は29日、約9800万円の一括払いを命じた1審千葉地裁八日市場支部の判決を変更し、介護費用分を毎月の定期金払いとするよう命じた。
 賠償命令額は一時金約5400万円と、女性が死亡するか84歳になるまで毎月25万円。一括払いを請求したのに裁判所が定期金払いを命じるのは異例。
 判決理由で鬼頭裁判長は「介護費用はもともと定期的に払わなければならない費用。推定余命を前提に一括賠償させると、多すぎたり少なすぎたりしてかえって不公平になる」と判断。「明らかに不相当という事情がない限り、定期金賠償方式が合理的」とした。(共同通信)[平成15年7月29日20時54分更新]

2 両判決の意義
どちらにしても、2つの判決は被害者原告が望んでいるのだから、支払方法はその意向に従うべきとする方向の判決です。被害者の意思尊重の判決が民事交通事故訴訟で出たのですから、ある意味でびっくりです。全国画一主義を旗印としてきたマニュアル主義=被害者排除システム理念に一石を投じるものであり、官僚的画一主義とは違う裁判所の1面を示した判決でしょうか。

3 死亡と重度後遺症事案との違い
では死亡と重度後遺症の事案と定期賠償方式の採否でどう違うのか。
(1)これまでは、定期金支払は重度後遺症事案で問題とされてきました。死亡事故での定期金賠償の例はほとんどないようです。死亡事例の教科書や参考書にないのに、死亡事故で定期金賠償の判例が出た、そんなところでしょうか。逆に重度後遺症事案での定期金支払問題は、教科書にありましたが、実際にはあまり訴える事例がないようです。どうしてでしょうか? ねじれ現象と言ってもいいでしょう。
重度後遺症事案では、昔から定期金支払いの論点はありました。中間利息控除論とは違った観点の議論でした。つまり重度後遺症事案は、平均余命の論点と裏腹の論点としてありました。例えば植物状態被害者に対して、今でも平均余命を通常と違い短く認定してもいいのでないか、という主張が損保より提出されます。この論点は、もし裁判所が平均余命よりも短く認定したときに、取り返しのつかない損害を与えることとなるので、裁判官としても平均余命より短縮する事には強い抵抗を覚えるようで、最近では平均余命とされるケースが多いようです。しかし、それでは困るというのが実務裁判官の本音があり、時々、定期金賠償方式が提案され、東京地裁では積極的に推奨されているようです。 実際の採用でも、定期金賠償の方が損保にとって損害が少ないとみる学者もいます。
(2)実際に被害者側は、実践的にはどうなのか? 
重度後遺症事案の場合に定期金賠償方法をとっていいのかどうか、悩むところです。
死亡事案は逸失利益だけが問題ですが、重度後遺症では将来介護料や将来医療費も含まれますから、どちらを選ぶかは非常に重要となります。支払の将来の確実性や介護費の変動による訴訟をされる可能性も問題なのです。
次に死亡の場合には、逸失利益の基礎年収が変動することはありえません。しかし重度後遺症の場合には、年収の変動はありうることです。働くことが出来たり、何かで社会に還元することは、訴訟とは別に、重度後遺症被害者が生きる意味を見出す生活の目標でもあります。
また重度後遺症事例では、将来介護費も変動する可能性もあります。有利不利に減額や増額となる余地が出てくる問題です。 そのときに損保から裁判されたら、果たして重度後遺症被害者は対抗措置をとれるのか、という問題もありますし、子供さんを親御さんが介護している場合には、親なき後の訴訟されたりする姿は予測できません。今まで重度後遺症事例で、学術上の争点としてあっても実例が少ないのは、こういう生の現実があるからです。福祉政策、病院の方針、司法等の谷間にある重度後遺症被害者の悩みは、机上の空論とは違い、切実です。今助けてくれるところがないのに、将来助けてくれるのであろうか、と。
また『民事賠償論の胎頭』という最近の損害賠償論の論文によれば、重度後遺症事例では、一括賠償方式よりも定期金賠償方式の方がはるかに低額となる、とされています。損保側にしてみれば、統計的に見て安上がりの定期金支払い賠償の方がいいのでしょう。平均余命までの生存する可能性が一般より乏しいこともあるからだとされてます。
(3)そうすると、定期金支払としては、介護料でも生きている限りとせずに、10年間や15年間だけと期限を区切っての定期金支払というのが、リスクを避け、かつ中間利息控除でも非5%となり、重度後遺症事例ではいいのではないか、となります。
定期金支払方法は、重度の場合には、就労終期までとか、或は死亡するまでの定期金支払方法しかないのでは、とされてましたが、今の超低金利状態を克服する為に10年や15年だけの定期金支払、10年先、15年先の一時支払いという方法を選んでもいいというのであれば、これに載ってもいいのではと思いますね。
先の7月24日の判決がいう『権利の乱用にならない限り』とはどういう場合を言うのかわかりませんが、10年限りの定期金支払いは、まさか権利の乱用とはいわないでしょう。

4 欠陥はないか?保険会社がつぶれたら?
定期金支払を選択する場合、昨今の経済事情の下では、昨今の経済事情では任意保険会社であっても第1火災、大成火災と破綻いたしましたから支払能力に不安がないとはいえません。(新しい交通賠償論の胎動、河邊判事30p)。このような加害者側の支払能力のリスクを被害者に負担させるわけにはいきませんので、このリスクをどうクリアするか、が最後の、最大の課題となります。履行確保のための期間を創設する必要がありますが、当面は現行制度の下で実務上の工夫をするしかありません(同判事)とされていますので、
結局は任意保険の信用があるかどうかにより、一括賠償を選ぶか、定期金支払いを選ぶかとなります。つまり担保供与制度が存在しない以上、被害者は自分の判断だけで、リスクを負うのが現状となります。
それじゃ信用力、資産のない任意保険ならば、迷うことなく一括賠償でしょうか。