重度後遺症裁判のために(11)
戦う家族(信号)
平成15年6月26日
 

『重度後遺症事案はさらに軽く扱われる』ことは前にも説明しました。
しかし戦った家族もおられます。

平成11年中国地方の都市で、早朝の通勤時間に信号のある交差点で交差する道を走行していた車同士が衝突。速度を出していた加害者である相手方は、衝突後も猛スピードで交差点角の中古車販売店に突っ込み、さらに数台を破損。どちらかが赤信号無視は明らか。
被害者は朝元気に自宅を出発し車で出勤した30代のサラリーマン。意識障害となりました。

警察の調べは、当初は形式的。加害者の供述をそのまま調書に記載。加害者は『自分は交差点の100m以上手前から青信号を確認し、手前で青信号を確認した』と。
赤信号無視なんかじゃない、それどころか、ずっと青信号だと開き直る供述です。いわゆる交通事故でよくある『言うたもん勝ち』を信じるタイプの加害者です。
問題は典型型的な否認事件ということです。警察も検察も嫌がる事件で、不起訴や罰金になるパターンが多い事件です。

一方当事者である被害者は意識不明の重態。危篤状態が続き、意識障害が続いていました。被害者の入院している病院へ加害者から電話。『意識があるか』を確認する電話。謝罪するでもなく、当初は身元も明らかにしない態度。『被害者の病状を知りたい』と。特に見舞いしたり、謝罪したりの行為も一切なく、被害者の意識があるかどうか、知るため電話をしていたのです。電話に出たのが被害者の家族だった為、加害者側の態度から真意がわかり、怒り爆発です。この電話は、強烈に被害者の家族に怒りをもたせるようになりました。その後はまったく連絡すらなくなったからです。待っても加害者側の人間が来ないし、被疑者から電話一つない。謝罪もなし。記憶があるかどうかだけ関心があったのだ、と確信となったのです。
なぜ、被害者の病状や意識の有無を気にするのか? そんな疑問が生じるようになりました。赤信号無視したのに、青信号だと嘘を言っているから、被害者に意識があるかどうか、知りたいのでないか? 日増しにそんな疑問が生じるようになりました。
『赤信号無視だ』という思いが強くなりました。『絶対に赤信号だ』との確信を持つようになり、許せない思いとなっていきました。重度後遺症の家族は通常は、介護で疲れ果てますが、この事件の家族はそれから尋常でない行動となりました。

家族が『警察の調べがどうなっているのか心配で』と、警察へ聞くと、被疑者は『青信号』と言っているようだと聞き、(やっぱり)と思い(それではこちらでも動くしかない)と衝突の車の写真やブレーキ痕などの資料を集め、東京まで駒沢鑑定士に直談判をしに行き、速度が100キロとする意見書をもらいました。さっそく警察にその旨上申書を書いて出したところ、警察の方が動き、速度鑑定嘱託と科学捜査研究所の鑑定となりました。目撃者も複数確保しました。その結果、速度は少なくとも27キロオーバーの暴走運転によるものであるとされました。そのうえ、目撃者2名の取り調べも丁寧に行なわれ、赤信号無視との結果となり、赤信号無視を理由とした事故として送検され、否認事件のまま業務上過失致傷事件として公判起訴されたのです。

刑事裁判でも被告人は青信号で、赤信号でなかった、と強気の姿勢を崩しません。
被害者が意識障害であることを利用して、開き直っているのです。
刑事裁判での家族の次の言葉は、マニュアル化された刑事裁判システムへの警鐘でもあります。

『最後に一言言わせてください。
弁護人が、任意無制限の損害保険に加入しており賠償額が量刑に大きく関係してくるとのことですが、おかしいと思います。被告人本人が私財を投げ打って賠償するのであればともかく、事故とは関係のない第3者の保険会社が賠償するお金で、どうして被告人の刑が左右されるのでしょうか。私は刑罰というものは、罪に対する報復、再犯防止に対する教育と社会に対する抑止力と3つの意味があると理解していますが、もし保険会社の賠償金が大きいからということで被告人の刑が減らされるようなことがあれば、刑罰はまったくその意味を失ってしまうのではないか、と思います。被告人が受けるべき刑罰と保険会社が支払うべき賠償金は、まったく無関係のものであるということを、今一度ご確認いただき、そして、交通事故は仕方がない、お互い様だからというのではなくて、この事故が明らかに法を犯された結果惹き起こされたものである以上、立派な犯罪なのであるということを、もう一度お考えになった上での判決をお願いしたいと思います。そして、もう一つだけ申し述べさせて頂きたいと思います。被告人の無謀運転のために、夫は健康な身体を夢も希望も奪われました。なのに被告人は今も車に乗り、仕事に行き、今もここに平然と座っております。こんな不公平なことがあるでしょうか。私は悔しいです。今も元気だった夫を思い出し涙を流さない日はありません。でも夫はその何倍も悔しく、つらい思いをしているのです。それでも私たちは後ろを振り返るのではなくて、明日を見つめて生きて生きたいと思っております。そのためにも、夫に、あなたの身体を元に戻してあげることは出来ないけれど、あなたをこんな目に遭わせた相手は、それに見合った適正な罰を受けたのだと自信を持って報告してあげられるような、判決をお願いしたいと思います。』

保険で済むという態度で、被害者のいないところで堂々と嘘を供述した加害者は実刑となりました。事故後、病院に入院したりして、逮捕拘束もなく、裁判でも拘束もされず、通常の生活をしていた加害者にしてみれば、まさか実刑となることはピンと来なかったのでしょう。重度後遺症事案では、家族が病院で被害者に付きっきりであったり、転院せざるをえない状況にあるため、警察も家族調書もとらず、連絡すらできないことも多いので、事件が罰金で処理されるケースばかりです。重度後遺症事案の多くは、家族が戦える状況にないのですが、家族が戦った稀なケースとして紹介しました。