重度後遺症裁判のために(10)
被害者のいないところで
平成15年4月6日
 

事例1  4年前、大阪の寝屋川の国道で自転車と車の衝突事故がありました。自転車は、国道の歩車道分離された歩道に乗り上げる形で路上駐車した車がいたため、やむなく回避して車道を走行しました。その回避自転車に対して後ろから走行してきた車が衝突して、自転車に衝突して、逃げました。路上駐車をした車のドアが開いていたこともあったので、自転車が大きく迂回したため、後続の車に衝突されたのです。被害者は高次脳機能障害となりました。轢き逃げをした車の運転手は、業務上過失傷害罪の20万円の罰金のみであり、引き逃げは不起訴となりました。調書では、目撃者の証言は『衝突後、車は加速して逃げた』となっていましたが、検察は被疑者に対して、轢き逃げ不起訴としました。理由は不明ですが、被疑者が否認しているのを、検事が嫌ったからです。2線級ピッチャーの副検事の仕事だったのです。
路上駐車していた車の運転手の責任はというと、一切問われていません。車道側のドアを開けたまま、車内で寝ていたようで、飲酒をして寝ていたようです。路上に不法駐車し、頻繁に車が走行する車道側のドアを開いたままにした責任は重いはずですが、なぜかこれも処罰されていません。危険な路上駐車とドア解放の責任は何も問われないのが不思議なほどです。事故証明書にも、この危険な路上駐車運転者は記載されていませんので、自賠責請求すらできません。民事で路上駐車の責任を追及することとなりますが、ひどい扱いです。被害者は重度後遺症となっていますが、被害者のいないところで、検察や警察の手抜きの措置はまさに加害者天国ニッポンの象徴です。どちらも飲酒運転なのに、誰もが責任をとらず、被害者が参加できない極端な事例であることが結果的に、システム側で利用されています。

事例2  3年前、大阪府高槻の住宅街では、住宅を取り囲む植木を刈っていた植木職人が、私有地と道路端部分に脚立を置き、刈り込みの仕事をしていたところを、前方不注意のタクシーが脚立を引っ掛けるように走行した為、被害者が脚立から落ち、タクシーに轢かれました。被害者は植物状態となりました。警察からは、『見通しのいいところなので、被害者に落度らしい落度なく、一方的に運転者に非が有るのだから、検察庁も厳しい処分をする』、と家族は聞いていましたが、実際に処分を待っていると、これも20万円の罰金でした。『先生、これ検察庁に文句言えないのですか。もう』と質問を受けましたが、1事不再理ですから、わずかな罰金でも刑です。『あんまりですね』。ホンマニあんまりや。
 なぜ、こんなことになってしまうのか、疑問に思います。 家族は社会に対する不信感を持ち、孤独感を持ちやすくなります。司法への信頼などありえません。介護に携わる中で孤独感もあります。 でもなぜ、こんなこととなるのでしょうか。
第1に、多くの重度後遺症事案の刑事記録を見ると、診断書は初期のものだけ提出されております。それが記録上正しいものとされ、初期診断後の1年後、2年後の症状固定等の診断書は、警察は追いかけておりませんし、取り寄せすらしません。重度後遺症の被害もそれほどの被害でない場合も同じ扱いです。H12年3月10日メッセージ報告通り、医療現場に対する警察の運用の介入も問題です。診断書はすぐ提出されます。したがって、治療間もないのに、『全治1ヶ月以上の見込み』等で被害のすべてとされてしまうのです。
第2には、死亡の場合であれば、被害者側は、遺族に言い分を聞き、遺族調書として被害の一部を確実にしますが、重度後遺症の場合には、病院を転々としたり、入院の付添いだったりで、警察との連絡が取れなくなっている場合もあるし、家族もそれどころでなく、介護介護の毎日が大変ですから、警察に行くことすら念頭にありません。被害者側の言い分が取れないまま処置されているのです。警察も初期診断書が一応提出されていますので、事件の被害を深く追うことは一切しません。以上が重度後遺症事件の多くが罰金等で終了させられる原因です。

捜査や手続きへの積極介入の必要
2つの事件とも、家族が事故以来、必死に毎日の介護をしております。被害者はひとりだけではなく、家族の人生が狂ったうえ、家族は毎日が重労働の介護をしております。高次脳機能障害でもある事件の方は、家族のストレスは、日々刻々とすさまじいものがあります。死亡に匹敵するといえる被害は実質2名以上です。こういう被害の実態を把握した捜査記録は見たこともありませんし、実際には、捜査資料を作ろうともしません。
 ですから、被害者としては、本当はある程度時間が経てば、捜査機関に対して、本人の症状の診断書やビデオ等を提出する必要があるのです。捜査への積極関与が必要です。 公判になった事件ですが、私は家族から『絶対実刑でないと加害者を許せません。頼みます』と言われて、撮影ビデオを提出し、意見書を書いて検事に出し、証拠採用され、実刑となりました。そのときの記事です。
【被害者の介護ビデオを法廷で放映 (14年2月28日 毎日新聞)
交通事故で業務上過失傷害罪に問われた大阪府豊中市の男性被告(21)の初公判が27日、大阪地裁(松山昇平裁判官)であり、事故で寝たきり状態となった東大阪市の被害男性(23)を家族が介護する状況を撮影したビデオが証拠採用され、法廷で放映された。被害者側の要望を受けて検察が異例の証拠申請をしたもので、犯罪被害者保護の動きに沿って採用されたようだ。起訴状などによると、男性被告は00年11月30日、同府箕面市内の国道で、わき見運転のため対向車線にはみ出して乗用車と衝突。乗用車を運転していた男性は頭を強打し、目の開閉以外はほとんど体を動かせなくなった。被害男性の家族らは「裁判官や加害者に介護の実態を知ってほしい」と検察に要望。法廷にテレビが持ち込まれ、被害男性に、家族が食事や入浴などの介護をする様子が約15分間映された。被害男性は車椅子に乗って両親とともに傍聴席に姿を見せ、母親は涙ぐんでいた。男性被告は終始神妙な表情だった。 
交通事故被害者の問題に詳しい松本誠弁護士は「重度後遺症事故での家族の被害は、今まで刑事裁判に反映されなかった。家族の介護の大変さも、被害の一部を構成するのは当然で、訴える場が求められていた」と話している。】と。

検事問題
検事は、机で仕事をしているので、被害の実情がわかりません。介護作業を見て欲しい、実際にして欲しい、と家族は思いますが、それは実際に無理。でもこちらでどこまでも立証までせねばならないのは、不条理。できるだけ捜査のことは、被害者側は忘れず、かつ書類等を随時提出する必要があります。対策はこれしかありません。そうでなければ、重度後遺症事案の制裁があまりにも軽い扱いなのです。 大阪地検の副検事は、被害者のいないところで、罰金で終わらせようとしているのが、仕方のない現実なのです。検察は裁かれません。不正義は検察にあるのに。

弁護士問題
刑事手続きに被害者が関与する必要は、絶対にあるのですが、問題は弁護士であります。重度後遺症事案はその多くが、損保代理人の手によって処理される現実があります。損保代理人は刑事手続きには絶対介入しません。刑事手続きや情報は、損保担当者や損保リサーチからのみ情報を入手する手筈としており、捜査はアンタッチです。かかる代理人のもとでは、罰金の意味が重くなります。被害者の過失がある程度推定されることとなるからです。事故の原因を被害者のせいにする調書などを疑いませんから当然です。介護費に強くても、事故分析に弱いのが損保弁護士であります。調書の分析をしない弁護士に依頼すれば、争えないことが障害となるのです。