重度後遺症裁判のために(7)
示談や和解
平成14年9月2日
 

示談和解が被害者にとって不利益なことは重度後遺症事案ではなおさらです。先のトピック『示談和解』で指摘していない点にも触れます。

1)特に示談交渉については、被害者側へは事故情報は呈示されません。損保の調査資料のみです。示談が行なわれる捜査段階では、捜査記録は日本では100%開示されておりません。損保側はそのための【損保リサーチ】等専門機関があります。ここには警察OB、検察OBが就職し、或いは顧問料を受け取って職員や弁護士が多数います。事故翌日に数字を転記した事故報告書や、検察情報が損保にあるのは、こういう仕組みがあるからです。 ところが、被害者側遺族には何にも知らされません。警察へ言っても、捜査の秘密となります。自分の身内には教えても、遺族は絶対に教えません。すると被害者側には、事故情報は確実にないのです。損保の言う情報を信じるしかないのです。損保はここでも、過失割合は何対何、たとえば9対1とか平気でしてきます。刑事処理が終了していない時期でです。すると被害者の過失割合が問題となる事案は、刑事処分を待ってから、動いた方がいいこととなります。交通事故では、民事と刑事はリンクしている点と、情報が開示されない点を把握すれば、示談をすべきでないとなります。

2)示談や和解がなぜ、被害者なぜ100%不利益か。決定的なのは金額の差です。和解では慰謝料、逸失利益は示談時よりアップしますが、裁判しても和解段階では、判決とは完全に違う項目があります。何が足りないか?というと弁護士費用と事故日からの遅延損害金がありません。もしこれを載せてきても、裁判官の【通常はこれはないのですが】と恩着せがましい言葉があります。どの和解でもそうです。すると和解と判決ではどう違うかかというと、事故後4年経過して和解か裁判という場合、遅延利息で2割、弁護士費用は1割とされていますので、損害の3割が削られることとなります。和解や示談すれば、弁護士費用は持ち出しとなります。ばかばかしいと遺族は思いますが、裁判官や弁護士の常識は違います。判決だったどうなるか、分かりませんよ、と脅しをして、7掛けの損害で我慢せよということになります。和解で終われば、遺族は自身の損害慰謝料と逸失利益の中から、弁護士費用を支払わねばなりません。出血を伴ないます。判決ならば、裁判所が大部分を認定します。和解はなんてばかばかしい、となります。官僚裁判官の下では常識的なことが、遺族にとっては虐待に近い扱いなのです。

3)【重度後遺症被害に特有な事例】
―症状固定までの休業補償や医療費の損保への支払交渉―
 多くの重度後遺症被害者で悩まれる事例があります。「損保が休業補償を支払ってくれていたのに、支払わなくなった、医療費を支払わないと言ってきた、どうしようか、弁護士に頼んでけど、一応の支払いはその後あったが、それからまた停止してきた、夫が意識障害となって子供がまだ大学生なので生活も困ってます」との相談が先日もありました。先月には、損保が医療費を停止してきたので、弁護士に頼んで裁判しておりますが、という相談もありました。目前の生活関係の悩みの相談をどう解決すべきでしょうか? この事例で悩まれる重度後遺症は多いです。どういえば言いか困る程です。重度後遺症事例だけでなく、損保が事故後の処理を当然してくれるものと誤解されている被害者も多いのです。損保は利益会社でして、利害は対立しております。少しの支払いもしたくないのが本音です。ですから当初医療費や休業補償をしてくれていても永久に続くわけがないのです。打ち切り時期は早く来ます。当然にしてくれるものと期待していた家族は、裏切りと感じたり、いじめていると感じるのは仕方ないでしょう。しかし、弁護士もシステムの理解をしていないために、当座の支払いを求める交渉に入る場合が多いのです。もっとも交通事故専門とする損保弁護士は限界を承知の上で交渉に入り、交渉が成功したとしてくる場合もあります。あくまで限度があるということです。かかる弁護士を馬鹿とか詐欺的交渉とは言わないが、一定期間の支払い決定をもらっても、それ以上続きません。交渉に初めから限度があります。 ではどうするか? もともと損保は敵であり、利害対立し、人間性がないことをするのが当たり前と思う立場からは、次のことを勧めます。

  1. まず身体傷害手帳の交付を受けること、これにより福祉手当てが出ます。
  2. 重度後遺症の場合、自動車事故対策センターよりの給付もあります。これらの給付をもらいながら、症状固定日決定をいつにするか、考えましょう。そして、自宅介護の準備を考慮して決定し、決定をしたら、すぐ訴訟提起となります。ある意味で打ち切られた分の支払いもその中でする戦いとなります。これが重度後遺症の家族特有の交渉の問題です。仮払いを求めたり、裁判所を通じてまで、症状固定までに費用の支払いをする弁護士の話をされる家族の話は勇敢な弁護士と映っていますので、余計なことを言いませんが、実はそういうシステムの理解をせず、或いは知っていて、交渉となるのだと認識すれば、家族の心の葛藤はなくなるかもしれません。常識とは違うかもしれませんが、これが被害者側家族の妥当な選択方法です。目先の問題をよく考えて、大局的に考える必要があるのです。

―地域や表に出して解決したくないから、示談を選ぶという悩み―
 死亡事例と比べて、地域や表にすることを希望しない場合が多く、重度後遺症家族の深刻な悩みがあります。マスコミの実名報道により、家族が2次被害を受けるように、裁判したら皆が知るのではないか、という心配に基づきます。実際のプライバシー開示により、近所の人からの一言で傷つく場合が多いのです。裁判による解決は特に公開される材料となるわけではないのですが、介護での毎日の家族には、到底裁判のイメージは、怖いのです。でも死亡事例と比べて、将来の生活の基盤さえ脅かす示談や和解には応じるべきではないのです。介護での心の問題にも関わることですが、この問題で悩まれる場合は深刻です。