これから刑事裁判を迎える遺族や家族のために 平成14年8月20日
 

刑事裁判まで
 刑事裁判となるにいたるまでに、上申書を警察へ提出したり、署名を集めたりされて、ようやく、刑事裁判の公判となる遺族や家族の被害者がいます。本来は、こういうことをしなくとも、公判起訴が当たり前なのですが、日本のシステムでは被害者が努力をしなければ、妥当な刑罰を加害者が受ける仕組みになっていないため、悪質な事故でも被害者はこういう努力をしなければならない仕組みです。どうしてか?人身事故のうち、正式裁判となる率はわずか1%にすぎないからです。このことを知る遺族は公判起訴を求めて、署名活動をしたり、上申書を提出するのは、やむをえないのです。

公判開始にあたり
 どちらにしても、公判となり、やれやれのはずですが、次の手抜きシステムが待ち構えていることを忘れてはなりません。公判でも被害者は当事者ではないからです。
しかし、公判の場合には、捜査情報を入手できたり、被害者が独自の声を出せたりする機会が設定されました。略式裁判による場合などではこれが出来ません。よって公判を迎える遺族はこれを最大限利用しなければなりません。そのためのテクニックを伝授します。
 刑事訴訟法上の公判手続きは、加害者=被疑者(弁護人)と検察官と裁判官の3者が公ら判当事者であり、被害者は当事者ではないとされています。かつては被害者を完全排除する公判手続きでした。しかし最近になって、被害者保護の見地から刑訴法が改正され、被害者の立場を尊重することとなりました。具体的には、意見陳述と公判記録の閲覧謄写が認められたのです。被害者も公判手続上準当事者となったのです。
(が、相変わらず被害者は当事者ではありません。このため、被害者が望む手続きについて、被害者側は誰に言うべきかわからないシステムとなっています。たとえば、これまでは検事を通して、証人尋問の要請をしていたのですが、被害者の意見陳述を検事に言っても、関心がありません。検事としては証人尋問で仕事が出来ると思っているから、意見陳述の重要性に気づかないのです。無論改正法により、検事に意見陳述の申し出を書面でなし、検事は裁判官に提出する建前のはずですが、被害者の立場を尊重しようとする役割を担う裁判官や検事は依然として消極的です。)

これまでの遺族に対する手続き上の取扱いとの違い
これまでは、遺族は捜査記録や被疑者の言い分がどうなっているかを知ることは出来ませんでしたが、法改正により、記録の閲覧謄写が認められるようになりました。裁判官の許可が必要とはいえ、意見陳述の前提となる情報が得られるようになりました。 
 これまでは、被害者は加害者の事故内容の供述、謝罪等の供述など、加害者の言い分に対しては、なす術さえありませんでした。このため、遺族調書は「許せません」とか、「しかるべき処罰を」とか、場合によっては警察官の言葉に従い、「穏便な処罰を」というように記載されるにとどまっていました。被害者遺族は抽象的な処罰感想しか言えなかったのです。悪質な事件で、公判となっても遺族の証人尋問さえ省略される例が多かったのです。捜査検事も公判検事も遺族と会いたがりませんから、遺族がどう思っているかさえ、公判で問題とされることは無かったのです。
 しかし、改正法により、遺族は刑事記録を見ることが出来るようになり、加害者がどう述べているか、わかるようになりました。抽象的だった加害者像が遺族に明確にわかるようになりました。時として、加害者の「反省している」という調書上の記載についても、事故後の対応を詳細に述べたりすることによって、具体的に反論できるようになりました。また事故内容についての供述に矛盾点がないか、探せるようになりました。形式的になっている捜査のミスや加害者の言い分に沿った捜査がなされていないかを検証することができるように、なったのです。これが出来るのであれば、法廷での利用を考えねばなりません。それが被害者や遺族の意見陳述の制度なのです。

捜査記録を何時から閲覧謄写出来るか?
記録の閲覧謄写がいつから出来るのかですが、これは第1回の公判開始時からです。この時点で検察が提出する証拠について、弁護人が同意した捜査書類についてのみ提出されるので、この公判に提出された記録のみ閲覧謄写できることとなります。公判開始までは捜査記録を見ることは出来ません。
公判開始後の閲覧謄写ができても、裁判長の許可ある記録に限定されます。前科調書などが排除され、被害者の写真などが排除されます。被告人のプライバシー保護や遺族の心情を配慮してといわれてます。

期日決定手続きに潜む被害者排除問題
 しかし、公判手続きは公判開始前に、3当事者(裁判官、検察官、弁護人)で日程まで決められます。被害者遺族は排除される仕組みです。2週間ほどの期間の間隔で次回、次々回が決定されています。期日から期日のサイクルは、遺族にとっては早すぎるほどです。
公判期日は裁判所では2回あるいは3回で終了します。簡単にいうと、実質審理は1回か、2回なのです。公判期日が2回というのは判決言い渡しを含めてです。これでは被害者遺族に反撃や検証をする時間はありません。
 期日決定がこのようにしてなされている実情を見る限り、ある意味で、刑事訴訟法の被害者保護の改正は骨抜きと考えても差し支えないのです。事前の日程決定について、被害者は希望さえ言えません。実際に3回と決められていた期日予定を被害者側が検事に希望を述べて、4回に延長した例が最近福岡地裁でありました。意見陳述や証人尋問の時間、そのための記録を読む時間を考慮すれば、時間がとても足りないのですが、ようやく1回の延長を認めてもらったものです。
要するに、公判期日決定については、加害者側は直接交渉できますが、被害者側は交渉できない仕組みなのです。検事にひたすらお願いをして、裁判官との交渉をしてくださいと言う以外に公判期日の延期や拡大は望めないのです。被害者は排除される仕組みとなっているのです。

傍聴や証人尋問や意見陳述をどうすべきか?
 こういう中で、遺族は積極的に被害者排除システム上で、限定された被害者の権利を徹底的に行使する必要があります。
傍聴については、遺影を持ち込むことや重度障害被害者も出席することが要請されます。
何の裁判なのか、裁判官の面前に突きつけることで、問題を真剣に考えることとなります。
居眠りをする裁判官もいなくなりますし、被害者の法廷上の戦いの心強い支援ともなります。遺影持込不許可などする裁判はあってはならないのでありまして、システムから排除される傾向にある被害者の法廷上の戦略の一つが傍聴や遺影持込であります。
証人尋問にも積極的に応じていくべきです。加害者は本人が嫌がっても被告人質問としてなされます。これとの公平なバランスを考えても、少なくとも証人尋問は検事に頼んで、被害者遺族を証人として採用されるよう頼むべきです。
意見陳述については、それでも足りないという見地から検事に要請することとなります。
特に大事なのは、最終段階にて、加害者側は被告人質問と弁護人の弁論との2本立てにより、徹底的な防御の機会を得ます。被害者側がこれに応戦するには、被告人質問の後で、被告人の法廷証言に対する反論機会を述べる必要があるのです。

公判対策
 以上より、公判に臨む被害者遺族の対策は次のとおりとなります。

  1. 検事が捜査担当検事より交替することが原則です(地方では交替しない場合もある)。
     このため、公判決定となれば、すぐに公判担当検事に連絡をとり、接触をすることが緊急の要請となります。必要不可欠です。
     この場合に公判検事を怒らせては、あまりよくないことに注意する必要があります。検事が時として言う言葉『検事は公平なんですからね』も、じっと我慢して耐えて聞く必要もあります。
  2. そして、期日決定が既になされ、しかもそれが実質1回や2回ならば、それについては『承服できない』として、『記録を読み取り、記録上の記載についての意見も述べたい、もしそれが出来ないのであれば、被害者遺族が記録を十分に読んでから遺族の証人尋問にのぞみたい、また遺族として意見陳述もしたい、』と検事に申し出ることが必要です。検事を通してのみ、決定された期日の回数を変更は出来ないことを肝に銘じるべきです。
  3. 第1回期日以降に、捜査記録を謄写できます。これは敏速にやる必要があります。というのは謄写自体が遺族に認められているわけではありません。弁護士協同組合等を通してでないと認められておりません。このために謄写できるまでの時間も1週間以上要します。
    謄写できたら、次に捜査記録を読む時間となります。捜査記録は特殊な様式でありますから、どうして読むか、最初は戸惑います。これに慣れる時間も必要です。
    場合によっては、何が問題か、わかりにくい書類もあります。記録を読み込み、理解するには相当骨の折れる仕事です。
  4. 次に、謄写記録を読み込んで、捜査記録上のどこに問題あるか、的確な意見を言う必要があります。まとめる必要があるのです。自分の意見を絞り上げる必要があります。
  5. これと並行して、加害者=被疑者の言い分を検証する必要があります。公判開始しての言い分とそれまでの言い分とを比較して、どう違うか、或いは目撃者の証言と食い違っている場合がよくありますから、その点の検証をする必要があります。
  6. その上で、証人尋問や意見陳述で何を言うべきか、が決定します。場合によれば、承認尋問で証言し、かつ意見陳述も述べるということが理想です。
  7. ただ、問題は遺族の法廷参加の方法としては、遺族以外の3当事者が決定することとなっており、そのうえ遺族の扱いについて証人尋問とするか、意見陳述とするか、裁判所や検事は2者択一とみなしていることです。どちらか一方で必要十分としている傾向があります。検事や裁判官には遺族の意見陳述の意味がわからないのです。遺族にとっては、証人尋問はあくまで受身の答えでしかありません。検事の用意した質問に簡単に答えていくしかありません。余計なことを言おうものならば、検事や裁判官から質問にだけ答えるように、と制されるほどですから言いたいこともいえません。
    検事の質問にない事柄で、遺族は述べたいことが山ほどある、ということです。現行の刑事裁判は、犯した事実を裁く場としては、あまりにも茶番なのです。
    (こんなことを法廷で言おうものならば、裁判官が怒りますから言わないほうがいい)
    この問題を遺族の立場で解決するには、困難だということが理解されると思います。
    実際に、遺族に薦めている方法は、とりあえず証人尋問に応じることです。記録を読み込む時間をくださいと言って、第3回目くらいにしたほうがよいでしょうか。その上で、最後に加害者の順番が来ます。被告人尋問です。これを傍聴席で聞きながら、そっと懐に忍ばせておくものがあります。被告人質問が終了した時点において、すかさず検事に対して書面を提出するのです(裁判官に直接は現行法では認められていません)。懐に忍ばせていた書面は、意見陳述の申立書です。内容は? 特に書く必要はありません。どうしてか?というと内容を書けば、その書面提出でおしまいです。内容は言う必要はないのです。『意見の陳述をしたい、どうしてか、最後の被告人尋問に対して被害者遺族の反論をお聞きください』とだけ、言えばいいのです。
     これは最終局面のテクニックです。検事としても証人尋問は終えており、仕事としては協力しておりますので、反対するわけが無いのです。裁判官としても、この段階であれば、被告人のいうことに対して、素直に聞く耳を持たない場合(ほとんどの場合そうです)には遺族の反対意見も聞きたい気持ちになるはずです。