重度後遺症裁判のために(4) 平成14年4月4日
 

高次脳機能障害
今回は高次脳機能障害被害の裁判の現時点での問題点に触れます。
1  高次脳機能障害の等級認定について
 等級認定により、高次脳機能障害では次のように各損害で違いがあり、損害額にかなりの開きが出てきます。具体的には(1)慰謝料(2)逸失利益(3)介護費の分野で違いが出ます。
(1) 慰謝料金額が決定的に違います。
(2) 等級認定で、労働能力喪失割合が100%とされたり、50%とされたり、生涯の逸失利益に相当違います。重度障害の場合には生活費控除がないので、相当の損害格差が生じます。
(3)また、これによりたとえば1級か2級かで終生介護を要するかどうかを決められる基準ともなるので、介護費が認められるかどうかとなります。
 ところが、高次脳機能障害の場合には、自賠責の後遺症等級認定や、これが認められない場合に行われる裁判所の等級認定において、等級認定方式が硬直した画一的基準となっているために、認定自体が否定されたり、被害者家族の思う実情よりも低い等級認定となる傾向があります。自賠責の認定を見直す動きもあるようですが、まだ見直そうという動きが開始されただけで、現状は指摘した段階にあります。後述の表が現状です。
 そもそも等級認定基準表自体は、わかりやすい目に見えるようなものさしです。しかし、これは高次脳機能障害の等級判定には不向きでありまして、これに代わるものや、新基準はまだ策定されていません。現状ではこの表の中で、高次脳機能障害に密接に関わる基準は「神経障害」に関するものであります(後述)が、神経に異常がなくとも高次脳機能障害の場合には社会復帰が困難である例が少なくないといわれています。
あまりにも等級認定の基準が高次脳機能障害の物差しにはならなくなっているのです。これが被害者家族の抱える制度的問題の一つです。高次脳機能障害の場合は、いわば損害論の入り口で拒否されているような場合が多いのです。

2  高次脳機能障害の等級認定を得るための具体的立証の困難性
 次に等級認定基準表がなくとも、裁判で、その社会生活レベルが社会生活に適しないとして、1級や2級の等級を主張し、立証しようとした場合の実践的課題や問題点に触れましょう。
 立証手段として、まずあげられるのが(1)医師の診断書ですが、この分野での医師の少なさが問題です。そして医師が診断する場合には(2)CTやMRIの画像を根拠にして脳機能障害と診断されるのですが、知覚障害、視力障害などは脳の障害部位が局所が画像に出るのですが、びまん性頭部外傷は画像として現れにくいとされています。したがって、これらの機器の画像に出ないが、社会復帰できにくい高次脳機能障害被害者が現実にいても、これを立証する術が現実には困難であることとなります。
 しかし現実に社会活動に支障が現実にできないのですから、このための認定をするための何らかの機関や第3者がいれば、高次脳機能障害被害者には立証の問題では救われるはずです。たとえば、社会的行動をパターン化して電話の対応、留守番、食事の準備、掃除洗濯、買い物、車の運転等、考えられるだけの項目を設定し、(3)これを検証する第3者機関を作る事、そしてその審査書(仮称)を立証資料とするのです。たとえば、買い物ではお釣りの計算が出来る、出来ないとか、買い物を指示されたもののうちの何個が買い物できたか、とかの成績表を各作業で作るのです。
これは本当は行政的分野かしれませんが、裁判での立証として考えれば、被害者の会や任意の有志メンバーで独自に認定を行っても認定基準一つとなり、今すぐにでも通用するものだと思います。(4)立証に限定するならば、被害者本人を必ず法廷に連れて行くことは必須の条件となるでしょうか。立証という意味で厳密ではありませんが、裁判官の眼前で、被害者が何か言ったり、行動したりすることも必要でしょう。被害者本人の法廷や裁判官の前での存在や行動を立証資料とする方法です。高次脳機能障害での特有のものですが、裁判官によってはもっとも適格なものかもしれません。(5)家族の高次脳機能障害を意識した日記も欠かせません。

3  介護費用認定や慰謝料の問題
たとえば、遷延性意識障害の場合には介護費の立証手段としては、高額判例事例集の判例を検証しますと、高額認定を得るためにはヘルパー介護が不可欠であります。高額判例事例の多くは実はヘルパーを雇用して現実にその費用を支払っている場合です。というのも家族が介護する場合とヘルパーが介護する場合とでは判例上出来上がった基準がありまして、家族は5千円〜8千円、ヘルパーなら実費あるいは1万円〜1万3千円です。家族が介護していれば、ヘルパーを雇用する必要があっても抽象的基準に拠らざるを得ないのですが、介護費用を現実に支払っていれば、この支払いが優先されることとなるのです。現実に高額判例を勝ち取った例はいわゆるこの症例であり、ヘルパー費用を現実に支払った例がほとんどです(ちなみにこれは立証原則でいえば「現実支払いが優先する原則」とでもいうのでしょうか)。
 ところが、高次脳機能障害被害者の場合はどうなるのでしょうか?
まず常時介護認定が診断書で出しにくい特質があります。介護認定の診断書を出すことが出来てもせいぜい随時介護程度です。それでいながら、家族の精神的負担には想像を越えるものがあります。介護することよりも、常時傍にいるわけですから、被害者の情緒や精神変化が家族関係を崩壊する可能性が常時あるといわれてます。情緒障害は家族に絶えがたいストレスを与え、これが時間の経過とともに軽減することはむしろ少ない、と言われてます。こういう2次被害は等級認定の決定要素とはみなされてません。特に怒りなどの情緒障害は母親等以外は傍に寄せ付けない、あるいは介護者として受け入れがたいものが常にあります。つまり介護をするにも家族でなければ出来ない場合が多いのです。ヘルパーを雇おうにも受付けない、という被害者が多いということです。そうするとストレスを常時感じながら、介護をするといういわば2重の労をとらざるを得ないのです。こういう場合常時傍にいないと被害者の情緒はさらに不安定になるため、余計に家族はストレスを感じることとなります。労働として考えると、ヘルパー以上の労働力と精神的疲労があるのですが、家族の介護とみなされるために、介護費が認定されても不当に安いのです。
 すると損害賠償訴訟の中での、そういう情緒障害による家族のストレス等はどのように評価されるのかというと、ほとんど評価されずに、「慰謝料」として一括評価されているのが実情であります。介護費は否定され、慰謝料でもほとんど評価されていないのが高次脳機能障害被害の実情なのです。

高次脳機能障害と関連すると思われる後遺障害別等級表
1級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
2級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの
3級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
5級
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服する事ができないもの
7級
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に服することができないもの
9級
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの