中間利息控除論(1)(判例批判) 平成14年3月18日
 

 中間利息控除については5%でなく、2%として計算されるべきである
 中間利息の算定につき、従来年5パーセントで計算されることが一般的であったが、現在の長期にわたる低金利状態と余りに乖離するもので、機械的に5パーセントを採用したのでは正義に反する。現に近年は、その経済実態に合わせ、5パーセント未満で算定する判例も増えてきており、平成12年12月26日に津地裁熊野支部は、被害者が62歳の女性の交通事故の件で、低金利時代が続き、近い将来、預金金利が5パーセントに達するのは困難だとして、2パーセントで計算すべきだとの判断を示している。2%で計算されるべきである。
 逸失利益は将来得られるべき収入につき、その蓋然性や可能性を合理的に判断したうえで算定されねばならない。合理的計算方法に中間利息控除論がある。中間利息の控除論は将来の一定時点で一定の受けるべき給付や所得等につき、現時点で弁済を受けることとなると、将来に給付を受けた場合と現時点で給付を受けた場合とで、価値的差異が生じることのないよう、現時点から本来給付を受けるとされる将来の弁済期までの運用利益に相当する金員を控除して現価値を算定することが公平であるとの観点から逸失利益算定の基準とされたものである。この運用利益のことを「中間利息」とされる。
中間利息については損害分担の公平の理念から導かれる帰結のはずであり、そのためにはいかなる理由により、いかなる程度の中間利息を控除することが具体的な損害分担として公平か検討する必要がある。
 (なお、中間利息の控除はホフマン方式とライプニッツ方式の対立があるが、いずれの方式も一定利率割合で将来価格から中間利息を控除して原価を算出する方式で、現在価格を銀行に預けておくと、単利で利息が増えて将来価格になるのがホフマン方式であり、1年ごとの複利で利息が増えて将来価格になるのがライプニッツ方式で、判例は今この現実的なライプニッツ方式に拠っている)。

5%中間利息論の検討
 判例の主流は5%を中間利息とする。根拠は2点ある。
第1 【民法404条、419条依拠説】
保守的な判例の考え方は、第1に民法404条や404条を根拠とする。「民事法定利率が年5分(民法404条)であることとの均衡」あるいは、「遅延損害金については民事法定利率とされている事との均衡」を根拠とする。
 この考え方は、不法行為法の根本理念に反し、かつ民法404条に無理やり準拠する、便法であり不合理である。以下理由をのべる。

1 民法404条は「利息を生ずべき債権」に関する規定であり、例えばお金を借りた借主という返済義務を負う責務者に課せられたものであって、任意の運用利益とはなじまない。遅延損害金が5%であるというのはペナルティが求められることからである。債権の債務者や遅延者の支払義務と被害者の任意の運用利益率とは馴染みようがないはずである。
任意の予定運用利率でいうと、例えば公定歩合があるが、これは日銀が市中銀行から手形を買い取る時の手形の満期までの予定運用利率=割引率のことであって、民法404条ではない。無関係とされている。
これらを同一に考えたり、404条に準じて考えるというのはあまりにも均衡を失した考え方である。「404条や419条の規定が民法制定当時における一般的貸し付け金利等を参考にして定められたものであって、中間利息控除の面と共通する面がある」というような指摘の判決も最近でもあるが、被害者が受け取る賠償金の任意の運用利率を定められるものでは決してないのであって、共通面などは一切ない。独断的な論法にすぎない。
 これと関連して、加害者側の反論で時々みうけられるもののなかに、
「加害者側の遅延賠償金が5%である以上、これとのバランスからも被害者側の運用利益を5%とすべきである」との主張もある。明白な誤りである。
というのは加害者側は事故日より支払い義務が生じている以上、賠償相当額やその一部を任意弁済出きるし、受け取り拒否されても供託をすることによって遅延責任をまぬかれることが出来るのである。加害者側である損保会社は時として支払いを一切しないことによって、事実上被害者に示談を強要する取引をする場合があるが、問題は一切の支払いをしないことを利用し、示談を強要していることである。知ってて支払いをしないことは制裁として5%の制裁利息を支払わねばならないのは当然至極である。支払い遅延行為を被害者側の任意の運用行為と同列であるかのように論じるものであり、公平の理念からも許されない。加害者の遅延の期間はせいぜい3年か4年であり、他方被害者が5%の中間利息を差引かれる期間はそれでは済まず、10年から60年にもなる場合すらある。加害者側は相当金額を支払いするか、供託すれば済むことでもある。アンバランスなど生じるはずもない。
中間利息控除論と民法404条の関係につき、最新判例は無関係であると指摘している。(東京高裁11年(ネ)第3863号事件平成12年3月22日言い渡しの4%判決)では「遅延損害金を付するのと中間利息を控除することはまったく性質が異なるのであるから、遅延損害金の利率が年5%であるからといって、中間利息の控除もこれに合わせなければならないものではない」とされ、(長野地裁諏訪支部平成10年(ワ)第8号事件諏訪支部12年11月14日言い渡し 3%判決)では「中間利息の控除は、将来受け取るべき金員を現在受け取ることによって、その受領した金員に将来の当該時点までの利息が生ずることにより、支払者に比較して受領者に有利になるという不公平を解消するためである。他方民法で規定されている法定利率は金銭消費貸借の不履行という面から定められているものであり、したがって法定利率をもって中間利息を控除する差異の割合とすることには、格別合理的な根拠はない」とされ、(大阪地裁11年第11093号12年8月25日言い渡し判決)でも「逸失利益の算定における中間利息の控除と遅延損害金の利率は直接の関連性がない」としている。
 よって、中間利息控除論は民法404条、419条とは関連がまったくない。
関連づけようとする判例は独断すぎる。

第2 【金利動向が予測不可能】説
 主流判例の2番目の理由は「金利動向を考えて予測不可能」そして、「予測できないから5%」としているのが主流判例の理由である。
1 金利動向から予測不可能というキーワードについて
 たとえば、当職が言い渡しを受けた判決を引用すると
「現在の金利状況での前提として判断するのではなく、長期的視野でみるならば、金利の動向やその基礎となるべき経済指標の推移を客観的かつ高度の蓋然性をもって予測することなど困難である」と予測不可能と4%論を排除した。
 しかしながら、この予測不可能というキーワードを判例が使うのはすべて低年齢被害者や20才代の被害者であり、高齢者は次の通りであった。
1)京都地裁平成12年(ワ)第237号12年10月17日言い渡し72才死亡主婦事例では
「バブル経済崩壊後のわが国の経済活動の沈滞やそれを反映した低金利時代の継続を考慮する時、右主張も決して故なしとしないが、法定利息、損害金利率等を考慮すれば、5%の利率で算定することが直ちに経験則に反するとは言えない」
2)阪地裁平成11年(ワ)第13400号12年9月27日言い渡し判決
(60才男性死亡事例)では
「将来の金利情勢を的確に認定することは困難であり、民事法定利率を考慮すると、中間利息の控除率を年5%とするのが相当でありこの計算方法が特段不合理とまではいえないと考える。」と
いずれも予測不可能のキーワードがない。
2件の高齢者の判決はいずれも就労期間が短く、予測は容易であると思われるのに担当裁判官はこのキーワードを使っておらず、理由としているのはただ、民法404条である。この点はすでに指摘した。予測困難は5%説の合理的理由ではないのである。
10年や15年後の運用利益はむしろ予測困難でなく予測容易といえるが、一切これらの判決は検討すらしていない。
「少なくとも、近い将来、預金金利が年5%に達するとの予測を立てるのは困難であることは公知の事実である、加えて就労可能年数は12年であるから、この間の中間利息の利率は年2%として控除するのが相当である。」(津地裁熊野支部11年(ワ)第48号)とするのが至極当然である。
2「予測困難」のキーワードの意味
 「予測困難」のキーワードは5%説を死守するために使用されている。10年や20年先の運用利回りも厳密には絶対に予測出来ないはずであろうが、現在の市場預金金利の動向によってそれに近い予測はできるはずである。あくまでも被害者側が5%で運用できると決め付けることは非現実的である。しかも判例がライプニッツ方式を採用しているものであり、なおさら不当である。というのは判例の主流は現実的運用に着目されて、ホフマン方式よりライプニッツ方式を採用したはずであり、運用利率についても「現実的運用利率」で計算されるのが筋だからである。
かつて判例の主流はホフマン方式であった。東京地裁において昭和46年5月6日判決ではじめて採用されたライプニッツ方式がこれに変わっていったのは当時の預金金利が5%を上回る預金金利の実情が続き、5%以上となることが恒常的となったため「より現実的運用を被害者ができる」とされたからである。
銀行の1年もの定期預金は昭和26年1月4日から年5%を上昇し始め、昭和55年4月14日には年7,75%となり、昭和61年3月31日に4,75%に低下するまで5%以上の金利だったのである。
昭和46年当時には被害者は5%以上で複利運用出きる実情があったために、ホフマン方式によれば加害者側とくらべて、不公平不当とされたため、より現実的運用という点から複利運用方式ライプニッツ方式が採用されていった。
 すると、ライプニッツ方式を取り、より現実的運用に着目しながら、なお非現実的な「5%運用」論に固執することは頑迷といわざるをえないのである。
ライプニッツ変更当時の5%預金利率も平成4年1月に5%を切ってからは急降下となり、平成5年になると1%台の預金金利となるにいたり、平成14年3月時点では0%台の預金金利で定着しているのであるから、時代背景が昭和46年とはまったく違うし、そのときの現実運用論でいうなれば5%は不当となるのである。
3 政府国債等運用する被害者の将来負担の増加をも中間利息については考慮すべきである。
高度成時代には国債など微々たる存在であったが、国の財政は危機的状況といわれている。日銀発行の経済統計年報によれば、国債を含む政府債務は昭和50年22兆円、56年110兆円、63年210兆円、平成7年326兆円、平成10年426兆円となり、平成13年年度末の朝日新聞では500兆円となり、地方自治体を含めた債務は645兆円となっているのである。被害者の運用金利決定ではかかる点は当然考慮の対象とされねばならない。
4 結論
 判例主流は複利か単利かについては被害者が複利で運用出きるとの現実論(ライプニッツ方式)に立脚しながら、運用利率については預金金利の現実を汲取ろうとする努力が見受けられない。運用利率は現実とかけ離れている。複利運用という被害者に不利な方式を選びながら、運用金利については今の経済社会にありえない、非現実的5%を選択するというのは不当不合理である。2%とされるべきである。

運用現実について
 1年定期預金の推移を見ると、昭和23年から26年まで、昭和61年3月から平成2年4月まで、平成4年1月から現在まで5%以下であり、5年以降は1%から0%台となって今日に至っている。かかる現実から目をそらして裁判されるべきではない。1年満期の過去の預金推移を見ると、平成4年までに判決を受けてきた被害者の大多数もそれ以降も現実に5%で運用できたといえるかさえ、疑問である。
判例主流は平成4年以前の預金金利が5%以上だったことをもって5%中間利息論を正当化の理由とするが、平成4年以前の被害者でも判決後の運用でも最近の低金利情勢によって5%まで達していない。結果的にみると、判例主流は多大の不利益を膨大な被害者に与えつづけているのである。あえて5%にこだわるのは正義に反する。過去の預金金利ではなく、今の預金金利等で決定するのが不公平を無くす為にも必要な措置であり、裁判所の基準とすべきである。
基準となるのは10年もの国債や20年ものの商品を扱っている生命保険会社の利率商品の運用予定利率等であるが、これはいずれも2%を切っている。10年満期の1000万円の銀行の定期預金の利率でも1%台はまれである。よって20年までの運用金利は2%とするのが損害分担の公平の理念にかなうものである。
中間利息は言葉が適切でなく、「被害者の運用予定利率」というべきである。不法行為法の根本理念である「損害分担の公平の理念」から考えれば、被害者の最高運用利率がいくらかを厳密に算定されるべきではないのであって、むしろ「適切な運用利率が今の預金金利で考えるとどのくらいとなるか」といった発想から考えるべきであろう。そういう意味では過去の運用金利も考える必要があるが、むしろ現在の国債の利率や公定歩合等で決定されるべきである。また、この問題は今の被害者の運用予定利率の事実の問題である。あくまで裁判所が事実ではなく、評価の問題として決定しているのは厳密には弁論主義違反の疑いがあるものである。
前記長野地裁諏訪支部判決は30才男子死亡事例で指摘する。
「民法で規定されている法定利率は金銭債務の不履行という面から定められているものであり、したがって法定利率をもって中間利息を控除する際の割合とすることには、格別合理的な根拠はないものと解される。そして現在の公定歩合は平成7年9月以来、年0,5%で推移していること、銀行の期間10年ものの大口定期預金の利息でも年1%以下であることは公知の事実であり、中間利息を控除する右趣旨を併せ考えると、年3分の割合を相当」と。
本件は就労可能期間20年内ならば、中間利息控除率は2%とされるべきで、
それ以上の50年などであれば、過去のデータを取り入れるべきでもあろう。ただし、その際には20年での運用利率を2%と決定したうえで、どのくらいになるかはせいぜい3%くらいがせいぜいと考えるべきであろう。
■ライプニッツ係数(年金原価表)■