危険運転致死傷罪の運用とリアクションについて 平成14年1月18日
 

1 危険運転致死傷罪は昨年12月の刑法改正で、悪質運転厳罰化法案が新設されました
14年1月16日には、栃木県真岡市で昨年12月27日に発生した事故に対し、酒に酔った男性がワゴン車を運転し、赤信号で停車していた乗用車に追突、助手席の男性に3週間のケガを負わせ、道交法違反(酒酔い運転)の容疑で現行犯逮捕され、アルコールが検出されたために、危険運転致傷罪で追送検された事件があり、続いて大阪地検堺支部呼は16日、飲酒、信号無視、速度違反で死亡事故を起こしたとして、トラック運転手を危険運転致死罪で大阪地裁堺支部に全国で初の起訴をした。 起訴状によると、大阪府阪南市の市道でマイカーで赤信号を無視した上、指定速度(時速30キロ)を大幅に上回る時速80キロで交差点に突入し、青信号で進んできた男性会社員(34)運転の乗用車と衝突し、男性を死亡させたとあるので、事実とすれば、危険運転罪が対象としているパターンの3つに当る悪質なものでした。

2 厳罰化法案に対する世論のリアクション
井上保孝・郁美ご夫妻からのメール配信によれば、
1月15日付朝日新聞の投書欄「声」に、神奈川県の保護観察官の投書があり、その内容は以下のとおりでした。
『「厳罰」が被害者や遺族の立ち直りに、どこまで有用なのか、疑問である。
・被害者側が真に求めているのは、加害者の謝罪であり、何らかの被害弁済である。
応報主義は被害者の立ち直りや加害者の更生にはつながらない。ゆえに、服役中の受刑者の作業賃金を一般並みにして、それを被害者側に支払うようにすれば、受刑者も罪の償いをしていると実感でき、それを受ける被害者も経済的な面だけでなく、相手の誠意を体感することができ、少しでも心が癒されるのではないか。』
井上さんはこれに対して反対される意見を次のようにおっしゃっています。
『この方のおっしゃる通り、厳罰化によって被害者の気持ちは癒されることはありません。失われた命が戻ってこなければ、私たちが完全に癒され、立ち直れる日は来ないのです。厳罰化法案は成立し、施行されましたが、それが過去の事件に遡及して適用されることもありません。そもそも被害者や遺族は、加害者が厳しく罰せられたら自分達が癒されるから、あるいは自分達の加害者が憎いという応報感情に答えてもらうために、法改正を訴えたわけではありません。ましてや、署名に協力してくださった37万名あまりの大半である一般の人は、被害者が癒されることを祈って厳罰化に賛同してくださったわけではなく、今の法律があまりにも人の命の重みが反映されていないこと、軽すぎる量刑ゆえに、罪の意識を感じることもなく、再び違反や事故を起こしてしまう人があとを絶たないことに危機感を抱かれたからこそ、協力してくださったのだと思っています。懲役に服している人たちに、もっと実質的な償いをさせるというのには賛成、刑務所に入る人はほんの一握りです。交通死亡事故の加害者の実刑率がわずか5%だということ、そして例え作業労賃が適正化されてそれが被害者に支払われたとしても、それによって加害者の誠意を感じる遺族は恐らく少数派だということをご理解いただきたいと思います。』

3 厳罰化法案に対するリアクションの意見は14年1月15日の毎日新聞の記事のクローズアップにもありました
 『交通事故の負傷者が3年連続で100万人を突破するなだ悪質運転の犠牲者が増えており、法律を厳罰化するという動きは評価できる。しかし、厳しく取り締まる前に、ドライバーや歩行者などに、法改正の中身を周知徹底させないと、せっかく厳罰化してもなかなか効果は表れないのではないか。行政機関は法律を変えただけで満足せず、「罰するより指導が先にある」という精神で広報啓発活動をしてほしい』と(日大名誉教授長江氏)。

4 厳罰化法案の運用とこれからの問題点
厳罰化法案は被害者遺族により実質作成された法案です。その願いはあまりにも軽い処分、軽い処罰である事に対する正当な指摘でした。諸外国と比べ、あまりにも軽い事実を背景に出来た法案でした。法案に反対する議員がいないほどでした。
これをいまさら、どうのこうのという人は自分が飲酒運転するわが身を心配するあまりでしょう。特に声の欄の意見は、被害者遺族には到底わかりがたい意見にすぎません。
悪質なドライバーのほとんどの気持ちというのはほとんど伝わらないほどひどいものです。
この被害者の思いや実情がわかっておられない。保護観察官は元加害者と面談交渉の機会はあっても被害者遺族の心をきく機会はないのでしょう。
被害者遺族の心配は厳罰化法案の運用です。実際に逮捕、起訴される例がどのくらいあるのか、そして本当に求刑が変わるのか、刑がどれほど今の現状と違うのかです。
もう一つの問題は厳罰化法案の対象外とされている業務上過失致死傷罪の起訴不起訴の運用や捜査の運用がこの法律が出来た事で変わるのではないか、という期待が被害者遺族には間違いなくあります。この隠れた遺族の願いに対して、法務省や検察庁はどう運用するのか?これらが問題です。