刑事裁判に臨む被害者の心構えとマニュアル
−被害者の初めての権利実現ために−
平成12年11月7日
 

交通事犯の公判事件において、平成12年11月1日より公判上の被害者の為の制度が出来た。被害者に、意見陳述の機会と公判記録閲覧謄写の機会が付与されたのである。とは言っても、「機会」というとおり、当然の権利とはされておらず、裁判所の許可を要する。要するに、今までは検事の判断一つだったのが、例外として裁判官の許可があれば被害者の言い分も聞こうという制度のようである。
68万件という業務上過失事件のうち、5千人の加害者、逆に言うと一部の被害者だけの制度が認められたに過ぎないが、反撃することが出来なかったことに比べるとまだましである。
特に意見陳述なるものが出来た。しかし検事はおよそ関心がない制度のようである。どの段階で意見陳述ができるのか、これからの運営にかかっていると言える。被告弁護人の最終弁論の後にしてもらえるのが最も望ましいが、もっと言えば、検事の論告後に「論告生ぬるい」と言いたい。意見陳述は、裁判所の判断にかかっているから、証人尋問が終わった後で、弁護人・検察官の最終論告弁論の前になるであろう。ともかく制約された制度ではあるが、一旦できた以上有効に活用したいものである。
以下に、被害者の意見陳述の為のマニュアルを作成した。これは予想される加害者弁護人の主張をもとに作っている。個々の事例で違う考え方もあるが、一般的なマニュアルと思って頂きたい。

1 事故の原因について
(加害者の言い分)
道路の見とおしが悪かった、天候が悪かった等の理由を言う場合
(被害者の反論)
道路の見とおしが悪かったり、天候が悪かったりすれば、それなりの注意義務が加重されるのが当然である。これを省みようとせず、責任を他に求めようとするのは加害者に反省の情が全くないことを示しているので、厳罰を求める。

2 示談に関する事情
(加害者の言い分@)
示談が成立している。
(被害者の反論)
示談しているなら反論がない場合が多いでしょうが、一応考えると、示談といっても事故の真相を知らないで締結したものであり、錯誤無効と主張する。

(加害者の言い分A)
示談の交渉中である。
(被害者の反論)
(1)被害者から持ち出した交渉ではない。
(2)被害者にすれば迷惑な働きかけなのに、それを無視して示談を強要してくるものであり、およそ交渉とは言えない。
(3)加害者弁護人は通常保険会社の弁護士ではなく、交渉の決定権を持っていないのであり、加害者のいう交渉は詐欺的交渉であり許せない。
(4)刑の減刑交渉のためのみの交渉であり、ポーズだけの交渉であることが判明したので、被害者はこれを拒絶した経過がある。よって、誠意は却って見受けられない。交渉としてはインチキの類である。

(加害者の言い分B)
示談の呈示をしたが、被害者がこれを拒絶している。
(被害者の反論)
(1)被害者の心情を無視した段階での呈示である。
(2)被害者として求めるのは、ただ加害者の処罰のみであるから、示談を拒絶するのは当然である。
(3)呈示自体に誠意のかけらさえない。
(4)刑の減刑交渉のためのポーズにしか理解できない。

(加害者の言い分C)
一部支払いをした。
(被害者の反論)
(1)一部支払いをしても加害者は保険会社への請求をするのが通常。保険会社への請求権を放棄したわけでもない。よって、情状の一つとはみなせない。
(2)一部支払いをするのは、突然事故に遭った被害者の立場を考えれば当然の行為であり、刑の減刑理由となること自体不当。もし刑の減刑事由として欲しいのであれば、それ相当の金額であるはずで、かつそれについて加害者の保険から出ない金額であることの立証がない限りは、刑の減刑交渉のための手段にしか過ぎない。

(加害者の言い分D)
自賠責金員の支払いがあったはずで、損害の一部が回復されている。
(被害者の反論)
(1)自賠責金員は損害の一部回復ではあるが、これは被害者自らがなした請求に基づき法律上支払われた金員であり、これをもって刑の減刑理由とするのはおかしい。
(2)自賠責請求せざるを得ないのは本件事故の為であり、かつ、加害者の誠意が無い為でもある。被害者は窮状のあまり、自賠責請求をしているのであり、これをもって刑の減刑理由とされるのは被害者の心情を傷つけるものである。

(加害者の言い分E)
自賠責金員の支払いがあったはずで、損害の一部が回復されている。
(被害者の反論)
(1)自賠責金員は損害の一部回復ではあるが、これは被害者自らがなした請求に基づき法律上支払われた金員であり、これをもって刑の減刑理由とするのはおかしい。
(2)自賠責請求せざるを得ないのは本件事故の為であり、かつ、加害者の誠意が無い為でもある。被害者は窮状のあまり、自賠責請求をしているのであり、これをもって刑の減刑理由とされるのは被害者の心情を傷つけるものである。

(加害者の言い分F)
年齢が若いことや家庭がある。
(被害者の反論)
被害者には希望あふれる将来があり、まわりも期待する人生があった。あるいは、被害者の家族のことに気が回らずに、自分の家族のことしか考えていないのは、何ら事故の反省がない証拠であるから、厳罰を求める。

3 その他、加害者を絶対許さないと思う場合についての主張
一般論として、日本の刑の実情があまりにも被害者の言い分を聞かずに求刑される等、いわゆる刑の寛刑化現象があるのは検察・裁判所においても反省されるべきことであるという日本の刑の悪しき現象を指摘する必要があるだろう。
また、被害者のおかれた今後のことも加害者と比べて考えてもらう意味で、被害者のおかれた立場は何年経っても癒されない傷が残ったが、それに比べて、実刑で長くても2年くらいで普通の生活に戻れる加害者は、被害者と比べてあまりにも幸福な身である。よって実刑を望むと主張する。