4 人身事故の非犯罪化策の理由や目的 

検察の非犯罪化策 
 検察庁の「非犯罪化」政策は、昭和61年から開始されました。その理由はあきらかにされていません。しかし、累積されていく業務上過失致死傷事件の処理に悩む副検事と検察庁の事務効率化のために開始されたものと思われます。
 あまりに起訴率が激減したためでしょうか。地域間格差がありすぎると、新聞でも話題になったためでしょうか、正当化する理由が必要となってきます。
 7年後に、法務省はH5年の犯罪白書でいくつかの理由を説明しています。

法務省の非犯罪化の理由づけ 
 昭和61年の検察の新基準作成から7年後、法務省は犯罪白書(平成5年版・13年版)で、検察の起訴率の低下を4つの理由で説明しました。検察の昭和61年開始の起訴率緩和策=非犯罪化策を法務省が後押ししたことになります。

  1. 国民皆免許時代、車社会の今日、軽微な事件について国民の多数が刑事罰の対象となるような事態となることは、刑罰の在り方として適当でない。
  2. 保険制度が普及し、治療費や修繕費に対する保険による補償が充実してきたことに伴い、加害者が起訴されなくても、被害者が納得することが多い。
  3. 交通事故の防止は刑罰にのみ頼るのではなく、行政上の規制、制裁をはじめ各種の総合的な対策を講ずることによって達成されるべきものである。
  4. この種事件を起訴するとはいっても、従来からその多くは略式手続きによって処理され、少額の罰金が科されていたわけであるが、このように少額の罰金を科するのは、罰金の刑罰としての感銘力を低下させ、刑事司法全体を軽視する風潮を醸することとなる。

法務省の言う非犯罪化の理由は正当か? 
 1番目の「軽微な事件」とするのが問題。飲酒運転していても、重大結果が生じなければ刑法上は処罰されないというのでは酔っ払い運転を奨励するものです。傷害結果が3週間内であれば、軽微な事件と扱うのも常識とかけ離れています。しかも傷害結果の基準は、初期診断書で決められ、実際の治療はこれ以上の場合が多いのが実情ですから、被害者にしたらとんでもないことです。
 2番目の保険制度普及で被害填補が可能となり,処罰がなくとも被害者は納得するというのは「保険金の支払いで我慢しなさい」と奨励するものです。法務省の理屈を借りれば、「生命保険加入者がかなり増えている」との理由で、殺人罪の適用すら刑が緩和されます。あきらかに不当です。この理由は刑事裁判で、執行猶予の理由にされているのが実情ですから、これを言い出した法務省の責任は大です。
 3番目の理由の交通事故防止は刑罰のみに頼るのではなく他の対策を講じるべきというものですが、実際の行政処分は1日講習だけで済んでいます。刑罰に代替するものではありません。
 4番目の理由は少額の罰金で済んでおり、罰金の刑罰としての感銘力を低下させるものです。罰金の上限は平成18年に50万円が100万円になりましたが、依然として低すぎます。「罰金が少額だから、これを科しても刑の感銘力にならない」というのは子供騙しです。フランスの法律では罰金は日本の17倍です。低すぎる罰金をもって刑の感銘力にならないというのは不当です。自由刑を言い渡せば済む話です。