11 重度後遺症被害者の問題 

1 警察の捜査の問題 
 交通事故が発生し、警察は加害者の取り調べの手続きは敏速に慎重に行いますが、被害者側への配慮はほとんどなされていないのが実情です。事故がどうして発生したのか、詳しく教えてくれないこともあり、警察が被害者の家族との接触を避ける雰囲気です。被害者を排除し、捜査情報も教えてくれません。
 どうしたらいいのかと被害者の家族が困っていても、自分達の仕事は事故の処理のみという雰囲気が警察に見受けられます。不慮の事故に遭い、右往左往している家族が、これからの捜査や医療・福祉等の手続き等について、最初に接触する役所が警察ですから、それなりの対処の仕方があってもしかるべきです。しかし、ほとんどの被害者家族は途方に暮れ、警察を頼って相談に行っても、積極的対応はしてくれません。
 捜査独自の問題としては、頭部外傷の場合、時として全治期間2週間の見込み診断等がなされることがあります。初期診断では症状は把握できません。被害が軽いとして不起訴になったりします。
 また死亡していないとの理由で、捜査書式も簡易書式で済ませている場合がほとんどです。このため、重度後遺症事例では、多くが罰金や不起訴で終わります。
 このために、後になって、民事で問題となります。

2 加害者の刑  不当に刑が低い 
 加害者の処分や刑の面で、あまりに軽い処罰で済み、不当に軽く扱われている実態があります。
 重度障害の場合には家族が仕事を辞めざるを得ず、被害者の介護を一生しなければならない場合がほとんどです。直接の被害者である重度障害者だけでなく、その家族も人生を奪われます。これが本当の被害の実態です。
 しかし、刑を科す側である検察庁や裁判所はこういう被害の実態を見ず、1人の被害で片付けています。被害の実態を捜査しないどころか、目をそらしています。介護の実態をみれば、死亡に匹敵するかそれ以上の刑を科してもいいのですが、介護の現場を検事が見ることもなければ、裁判官が見ることもないのです。
 しかも、被害者自身についての捜査さえ、1枚の診断書だけで事件を処理しています。「死亡でないから罰金で」という感覚で処理します。

3 病院と捜査 
 被害者は突然の事故に遭い、やむを得ず入院するのですが、病院側はほとんど例外なく、3ヶ月経ったら退院して下さい、と要請します。これは病院の保険収入の損益分岐点が、新規の場合3ヶ月となっていることに起因し、どこの病院も扱いは同じです。ただ、その後の入院先でも殆どが、入退院を繰り返している例があります。12回目の病院という例すらあります。3ヶ月で退院要請があるのですが、入院している病院も転院先を紹介してくれるわけではなく、自分で探してもほとんどの病院が受け入れを拒否します。この審査も大変な時間と労力を要します。植物状態に近い被害者の場合はなおさらです。
 苦しむのは被害者とその家族だけであり、病院が悩むことはないようです。転院を繰り返したうえで、なお転院先では、肩身を狭くして遠慮しながら、仕方なく病院に居つづけるのです。
 病院を転々とせざるを得ないことの帰結として、捜査の手が被害者の実態に及ばないとなります。警察の手元にあるのは初期診断であり、終生介護を要するとは、書いていません。このため、植物状態でも6ヶ月の見込みと書かれた診断書で捜査が済んでいる例に、何度も出くわしました。

4 病院とヘルパー問題 
 平成7年頃から病院では私的に頼むヘルパー制度を廃止しました。完全介護体制という名目上の制度が出来たからです。
 ところが、一流の病院ならいいのですが、重度障害者を受け入れてくれる病院は、このような完全介護体制を充実させているところは少なく、家族がやむなく介護をせざるを得なくなります。このため、腰を悪くしたりする家族もあり、ヘルパーを頼もうと思っても、病院側で断られるのです。事故も入院も望んだものでもないのに、理不尽な扱いが続くのです。家族は事故発生時から、介護労働を強いられる現実がある場合もあります。かかる労働が正当に評価されればいいのですが、現実は、裁判所の認定は非常に低い現実があります。

5 保険の問題 

  1. 重度障害者の場合、医療費は治癒途中であれば任意保険から医療費が支払われます。しかし症状固定して、これ以上改善の見込みがないとされれば、医療費の支払いは患者負担となり、保険金の支払いがストップされるのです。
     これ以降は軽度の障害の場合と同じく、後遺症として逸失利益、慰謝料の問題として処理されるとされています。ところが、重度障害者の保険金の支払をストップされると家族も困るし、病院でも対応に困るのです。こういう段階で相談を受けると、被害者と家族の生活や人生を賭けた戦いとなります。とりあえず、自賠責金で数年分の生活費を確保し、問題となる慰謝料や逸失利益を裁判等で確定しなければなりません。重度障害被害者の家族は仕事を辞めている場合が多く、死活問題となるからです。重度障害被害者特有の問題点です。症状固定以後もリハビリ費用や介護費用の支払を保障されるべきであり、そうでない限り、重度障害被害者は民事交渉においても、経済的に不利益な立場に放置されることになります。
  2. 重度障害者への自賠責支払いは3千万円から4千万円に増額されました。
     高次脳機能障害の等級認定手続きも、最近になってようやく被害者寄りとなってきました。

6 民事裁判上の問題  

  1. 家族の介護料
     家族の介護費は、裁判において損害として当然請求できます。家族は予期せぬ事故により、介護をせざるを得なくなるのですが、家族の介護の評価についての裁判所の認定は不当と言える程低い額です。職業的介護者の場合と比べて、約6割程度でしかありません。家族が4割分の労働を家族だからという理由のみで無償でさせられているのです。介護保険制度での単価とはかけ離れた金額であり、およそ近代国家の裁判とは思えない処理方法です。「家」制度を前提とする封建的な考え方が根底にあります。そのことを前提として、民事裁判は、立証で工夫をする必要があります。
  2. 中間利息控除 複利運用
     重度後遺症被害者の裁判での逸失利益や将来の介護費の計算については、交通死亡事故と同じく、5%複利で中間利息を控除される問題があります。死亡事故と違うのは、被害者本人が年間5%での複利運用が出来るとして計算される点です。重度障害を抱える本人がおよそ考えられない高利の賠償金の運用が一生出来るとして処理されます。弱者の切り捨て現象があります。
     重度後遺症被害者の場合は、死亡の場合と異なり、生活費控除がありませんので、中間利息控除額は巨額となります。例えば、20歳男子が事故に遭い、当時1級の症状固定を診断されたとします。
     賃金が年500万円とすれば、就労終期の67歳までの賃金は単純計算では
      500万円×47(年間)=2億3,500万円ですが、5%中間利息控除では
      500万円×17.981≒8,990万円 となります。
      重度障害の場合、介護も損害ですが、介護費を1日1万円として78歳までの介護費を単純に計算すると、
      1万円×365(日)×58(年間)=2億1,170万円ですが、
     5%中間利息控除で計算すると
      1万円×365(日)×18.82≒6,869万円となります。
     中間利息が複利計算でなく単利計算であれば係数が26.85となり、上記の金額は9,800万円となります。
     ここでも、裁判所による弱者切り捨て現象があります。
  3. 後遺症の厳しい認定等
     重度障害の場合、脳の高次機能障害を伴うことが多いのですが、後遺症基準自体が硬直なためもあって、後遺症認定されないケースも少なくありません。

7 その他の問題 
 重度後遺症被害者の家族は常に介護を行う状態にあるため、これまでの人間関係や生活環境とはまったく違う環境に置かれます。精神的にも極めて問題のある環境となります。このため、介護をする家族に、特有の精神的疾患が現れると言われます。かかる家族が介護をしながら、民事裁判をするのは大変です。裁判では裁判のルールがありますから、前向きに『どうすれば介護実情をわかってもらえるか』『裁判で高額となるためにはどうしたらよいのか』 などに取り組まれる家族が多いのが実情です。トピックでも何回か触れていますので、検討ください。