5 民事訴訟の類型的審理 

 慰謝料は、日本弁護士会の損害賠償算定基準によると、家族の大黒柱では2,500万円、子供では1,500万から2,000万円の範囲です。出会い頭の事故や酔っ払い運転など悪質な運転による場合など多様なのですが、悪質でも民事裁判においては「お涙頂戴」程度の慰謝料の増額事実としか評価されません。真実を明らかにしたい、制裁をせめて加えたいという民事裁判への願いは届いていません。制裁的慰謝料は当然ですが、裁判では遺族の声に耳を傾けることはあまりありません。「懲罰的慰謝料は認められない」として、慰謝料にはほとんど反映されません。元大阪府知事の「セクハラ訴訟」は、合計1,000万円の慰謝料が認められましたが、この判決を聞く限り、交通事故の命の値段を1,500万円から3,000万円とするマニュアル表は遺族の心情からかけ離れたものです。
 裁判現場では悪質非道な事故でも、慰謝料は3,000万円が上限とされています。命は「物」として扱われています。慰謝料算定は行為の態様、結果の大きさによって判断されるべきであると民法の教科書にありますが、実務はマニュアルによった判決が下されています。そのため審理も形式的な書面審理で行わる実情にあります。行為態様は捜査記録にあるとして、加害者尋問を不要とする裁判官もいますが、この点は遺族が事故態様を争う場合には加害者尋問が必要です。他方、結果の大きさの立証には、被害者遺族の尋問は必要不可欠ですが、被害者や遺族の尋問は不要と考える裁判官さえいます。

PTSDとは何か 
 慰謝料の中でも、遺族の心の痛みについては心的外傷後ストレス障害という症例で象徴される問題があります。子供の事故では、母親の精神的ショックが大きい場合が多く、緊急の心因性ショックや心的外傷後ストレス障害(PTSD)と言われる精神障害等に至る場合も少なくありません。急性であったり、慢性的な症例であったりします。PTSDは、後遺症として裁判所が認めない限りは損害といえる症例とされておりません。裁判所に後遺症として認められない限りは慰謝料にも反映されにくいのです。詳しい医師はあまりいないため、裁判で立証責任を負う被害者に認められる可能性はほとんどないのです。
 平成11年の毎日新聞では、「遺族の50%以上にPTSDの症状が見られる」との記事がありましたが、裁判の現場でこれは反映されておらず、実際には被害者遺族の心はずたずたに傷つき、心が正常になるには10年以上かかります。