2 民事手続き(交渉や裁判)の被害者や遺族の不利益状況 

 事故の捜査に遺族や重度後遺症の家族は、関与できない仕組みです。警察の捜査能力にも一定の限界があるため、加害者側の供述に沿う捜査が中心となりがちで、警察も加害者の供述を疑う捜査はあまりしません。事故態様や過失割合について、当初から被害者は不利な立場です。このため、被害者側は捜査初期に、加害者の過失行為について検証することが何よりも必要です。現場に行ってよく状況や事故の再現を確認することや、加害者の言い分を聞き、これを確認することなどが必要な対策です。民事では、この捜査記録を前提に、手続きが進みますが、特に示談等について解説します。

示談 
 事故の情報や捜査情報の不足があるので、示談交渉は一般的に不利益です。構造的に不利益な交渉の枠組みが放置され、不平等な取引を強いられている実情です。被害者側は捜査の検証も出来ず、かつ、捜査情報は加害者側だけが得やすい立場にあるので、圧倒的に加害者側が利益という状況にあります。
 たとえば、加害者側は、過失割合が決まっているように被害者に押し付けます。しかしながら、過失割合は最終的には裁判所の判決で決まることであり、事故から間もない時期に、過失割合が軽々しく決定されるものではありません。
 場合によっては過失割合を言うにあたり、損保側はサンプル事例を出してきますが、これと違った過失割合とした判決がないか、よく検討すべきです。現場の状況や、事故の瞬間は、個々違うのでマニュアルでは解決しない場合がほとんどです。過失割合について被害者側はこだわりを持ったほうがいいといえます。

被害者や遺族は不利益な交渉を強いられている? 
 交通事故の捜査情報を警察検察が独占し、捜査段階で被害者側に、きちんと知らせないため、加害者側と比べ、被害者遺族は不利益です。民事手続きでも被害者遺族は放置されたままです。民事事件は情報資料は被害者自らが主張・立証しなければなりません。本来ならば裁判前に保全手続きを取り、裁判官に民事保全決定を申し立てます。医療過誤事件のカルテなどです。しかしながら、交通事故だけは警察が独占捜査を行っているため、被害者が調査や証拠保全をしようとしても出来ない仕組みです。被害者側が望む証拠の保全とは、供述調書、信号周期表、ブレーキ痕について等の捜査段階での捜査記録の即時開示です。記録の即時の開示がなされないために、捜査が適正になされたか、記録の検証も被害者側では出来ません。
 したがって、被害者は事故情報を知らないまま加害者側と交渉せざるを得ません。保険会社側は、独自に損保調査会社を使い、警察や加害者側から情報を得て、加害者側に有利な情報で交渉にあたるのです。『文句があれば裁判して下さい』という交渉の切り札を用意して。
 示談においては、著しく不平等な取引や交渉を被害者は強いられ、これを国は放置しているのです。
 本来、被害者は加害者とは公平なはずですが、実際は不公平な扱いが実情です。例えば民事裁判は手続的に平等であることが原則で、攻撃防御方法の提出、証拠の収集提出は平等で、実質的な手続平等の保障があるはずです。機会を両当事者に平等に与えることが必要なのです。
 ところが捜査情報は、捜査後、加害者の処分が確定するまでは、被害者側には開示されないのが日本の制度です。(平成12年11月に初めて、刑事裁判事件だけ、公判開始後とはいえ、裁判終了前に、被害者側が見ることが出来るようになりましたが、人身事故の全件数の1%とわずかです。しかも、記録のすべてが開示されるわけではありません。)
 事故現場の状態も変わり、目撃者の記憶も薄れてしまう時間が経過する中、被害者は民事裁判のため証拠を独自に収集せざるを得ません。加害者側に比べ、不平等です。加害者側は、警察での加害者の供述や尋問を経て、捜査情報を得ているからです。加害者側の損保会社は損保調査会社を使って、検察OBを使い、警察や検察の捜査情報をたやすく入手します。加害者は損保担当者や損保弁護士と関わり、加害者の『言い訳』が供述調書となります。
 被害者は加害者供述の裏付けをして欲しいと願いますが、警察にはこれを確かめる捜査の士気などありません。刑事段階において不平等な手続きのもとで作られた(被害者側に検証の機会が与えられない)供述調書が民事裁判で証拠能力を持つ不正義となり、事実の作成収集でも不平等が存在するのです。