4 被害者遺族への捜査情報開示 

 捜査段階と処分後に分けて、考えます。

@捜査段階 
 すべての事件つき、日本では捜査情報は捜査中に公開されません。捜査段階で捜査情報が開示されないことは、非犯罪化と共に加害者天国ニッポンの大きな原因です。
 捜査段階で開示されないため、被害者や遺族は不安な状態で、捜査や加害者に不信を持ち続けるのが実情です。
 日本では、事故捜査中は捜査情報は開示されませんが、世界的に見ると問題です。
 捜査段階で捜査情報が開示されるのは世界的には当たり前です。民主主義の要請でもあり、行政のチェックの要請でもあるからです。
 ドイツでは警察の送検後、ただちに開示され、捜査段階で開示される実情にあります。アメリカでは、交通事故は、実況見分後3週間で事故レポートとして開示されますし、市民の知る権利として当然の権利とされます。
 日本では行政の情報開示もつい最近ですが、捜査情報の開示はなされず、世界の中で遅れています。特に警察に関する捜査情報のガードが固いようです。
 警察のねつ造が横行し、ずさん捜査が当たり前となった日本の交通警察を見れば、非公開の弊害ばかりが目だちます。交通事故捜査情報を開示しない理由はないと思われます。加害者天国ニッポンの原因の一つは検察の非犯罪化策ですが、2番目は捜査情報非開示制にあります。捜査情報を公開しないのは不当です。警察や副検事の取調べを隠匿する必要があるからか、と勘ぐります。検察幹部により業務上過失致死傷罪が骨抜きにされた非犯罪化策が許されないように、捜査情報を被害者に開示しない法務省も「被害者の知る権利」を侵害しており、許されないでしょう。捜査情報は一般公開は出来なくとも、被害者や遺族には知らせるべきです。
 第1に被害者や遺族は事件当事者ですから、当事者として当然知るべきです。業務上過失致死傷罪での起訴率は極端に下がり、処罰が緩和され、捜査現場の士気が低下する状況では、遺族は捜査を監視する必要があり、捜査について遺族のチェックが必要で、捜査情報の即時開示を求める権利があります。
 捜査の監視を検察、警察、検察審査会に期待するのは、警察と検察に自浄作用がなく無理ですし、検察審査会も不起訴事件の不服だけで、審理も形式だけでこれも無理です。加害者の供述に頼る捜査で、充分な捜査がなされていないのから被害者や遺族によるチェックをすべきで、捜査情報の即時公開は不可欠です。それどころか捜査情報が被害者に伝えないため、加害者を正当に処罰するための言い分をいう機会を被害者側から奪っていますし、損保会社との示談交渉や裁判の場でも、遺族に事故内容を知らないことによるマイナスを与えています。捜査情報は加害者や損保側に事実上流される反面、遺族は事実を知らされず、損保会社との示談交渉等に臨まざるを得ないという著しい不公平もあります。
したがって、捜査情報を開示しないことは被害者に2次被害を与え続けるのです。

 被害者遺族に捜査情報を開示することの意味は、ずさん捜査を予防するためと加害者との公平な扱いをしてもらうためです。
 遺族は適切な捜査が行われているか関心事です。交通捜査は士気のない捜査や逮捕しない事件が多く、供述調書がまともに作成されているか、遺族は不信感を持っています。実況見分調書作成後に監視し、検証する必要があります。目撃事実や加害者供述も検証する権利があります。情報へのアクセスだけでなく、情報作成の検証が必要といえます。加害者の処分前に検証することが被害者遺族に重要です。目撃供述を否認する加害者がいても加害者の供述に沿う調書作りをする捜査の実情では、捜査開始段階からの監視が必要です。被害者遺族は捜査情報を正確に知れば、どんな処罰を求めるか、具体的意思も表明できますし、処罰過程に参加できます。

加害者との公平な扱いの意味 
 証拠収集は事故発生時から始まっています。捜査が終了してからでは遅すぎます。しかし警察の捜査独占により、被害者は捜査情報の入手はできません。証拠作成へのアクセスは被害者にとって不可欠です。民事裁判での証拠対等、武器平等のルールを貫く時、実況見分調書等は作成された直後に見る必要があります。加害者側は損保リサーチや検察OBを通じ、捜査情報に接近できます。捜査情報を「知る」時期を逃せば、手の打ちようがありません。供述調書を作成して1年や2年後に見せられても意味がありません。事故発生後の適切な時期に捜査情報を知る権利の実現・確保が絶対に必要です。捜査情報が新しい段階で情報の検証が出来るからです。そうでなければすべて遅すぎたとなります。

捜査情報を開示しない理由はあるのか? 
 検察や法務省がいう捜査情報を開示しない理由は
(1)プライバシーの保護 (2)捜査の密行性(捜査の支障)です。
 しかし、被害者遺族は事故当事者として地位をそのまま引き継ぎますので、被害者固有の権利があります。特に事故の捜査情報を知ることは制裁や民事の扱いで大事なことです。
 被害者の権利は(1)加害者に正当な制裁を求める権利 (2)裁判のために証拠収集を求める権利 (3)この権利の実現のため捜査情報を知る権利です。
 捜査情報非開示はこの被害者の権利を侵害しています。事故直後の加害者や目撃者供述で、賠償額が左右されます。事故後すぐに民事裁判もできません。捜査情報非公開システムは、被害者から一方的に民事上の権利を奪っています。

捜査情報非開示の理由としてプライバシー保護は正当か? 
 “加害者や目撃者のプライバシー保護”で、被害者遺族の権利を奪うことを正当化されません。事故直後の実況見分調書と供述調書の捜査情報は開示されるべきです。目撃者や加害者のプライバシーを被害者の権利より優先するのは被害者の人権を侵害するものです。一般人への開示が出来ないとしても、被害者遺族にも公開しないのは、明らかないき過ぎた規制で、憲法21条の「知る権利」の侵害です。被害者への捜査情報の開示は当然です。

「捜査の秘密あるいは捜査に支障をきたす」という法務省の理由は正当か? 
 誰にも知られぬよう証拠を固めてから、被疑者に接近し、供述を求める捜査の特質から、捜査の密行制・捜査の秘密が言われます。一般刑事事件、たとえば横領や収賄犯罪には当てはまりますが、交通事故は公道で発生してますから、捜査の秘密は関係ないはずです。むしろ、捜査情報を開示すれば、警察も加害者の供述に沿う調書作りが無くなるでしょう。捜査情報を開示すれば目撃者も得やすく、より真実が得られます。士気なき交通警察の現状を考えれば適切な捜査も期待できます。「情報開示すれば捜査に支障が生じる」とは、ずさんな捜査の実情を隠したいがため、としか思えません。

捜査情報の非開示制は被害者の知る権利を侵害していませんか? 
 捜査情報非公開制度は被害者遺族の知る権利を侵害しています。現在の刑事手続きは、被害者の声が考慮されていません。証拠収集や調書作成段階に被害者の声は反映されません。警察は科学的捜査をせず、加害者の供述に沿う捜査です。目撃者がいる場合すら、加害者の供述に沿う捜査です。被害者遺族は警察や検察に対して不信感を持ち、二次被害を生むのです。事故から時間が経てば目撃者の記憶も薄れますから、検証もできません。実況見分調書の作成後に調書等を見れなければ検証は不可能です。
 被害者は、刑事面でも民事面でも、不利益な交渉を強いられています。捜査情報の捜査段階での、即時開示は遺族の当然の権利です。遺族は知らされないため、刑事面では刑の減刑を求める加害者側の交渉に戸惑います。何も知らされず、捜査で加害者のしたことをどう思うかと遺族が聞かれても、答えようがありません。同様に、民事面でも事故の過失割合を押し付けてくる損保側の対応にも戸惑い続けるばかりです。

A処分後の開示の実情 
 不起訴事件は処分決定後にしか開示されません。開示対象は、従来は実況見分調書だけでしたが、被害者の声に配慮して、鑑定書と信号周期表が開示されるようになりました。起訴事件のうち、公判事件は最近になって公判中記録を見ることが出来るようになりました(2000年)。刑事公判事件は、かつて刑事事件の判決後、確定してからでないと捜査情報を開示されませんでしたが、公判期日の1回目から捜査記録の開示は裁判官の許可を条件にできるようになりました。
 略式裁判や不起訴事件は、処分や裁判が確定後に、開示されます。
 裁判終了すれば、検察庁に記録が保管されるので、裁判終了後は検察庁が請求先です。
 起訴事件のうち、略式裁判(罰金)は、裁判確定後にしか捜査情報は開示されません。

刑事裁判の情報開示の問題点 
 刑事裁判事件は、例外的に第1回目公判期日から開示請求ができますが、本来は捜査情報の開示の必要性は即時にすべきで、裁判になってからは遅すぎます。裁判前の情報公開が当然で、捜査書類が作成された直後に公開されるべきです。事故捜査を国が独占している以上、捜査を受託されている国は捜査情報を即時に公開しなければならないはずです。捜査は被害者を排除していますから公開される必要もあります。
 公判段階で捜査情報を閲覧できるのは公判請求のわずかな事件です。業過件数の1%です。罰金略式裁判や不起訴事件は処分確定後開示で、これらの事件こそ加害者供述や捜査を遺族が知りたいと思うのですが放置されたままです。全事件の1%数の開示実情は押し付けがましい恩情にすぎず、大多数の被害者は知る権利を侵害されています。
 開示時期は公判1回目からで、刑事裁判確定後は検察庁で申請することとなります。
 刑事裁判事件で捜査情報はすべて開示されるわけではなく、開示対象に限界があります。

  1. 判決文 被害者に開示されていないのが実情です。民事裁判で証拠となるのは判決以外の捜査記録です。裁判所が文書提出命令を出した場合にのみ、開示されるのが実情です。 なお略式罰金事件では判決文が開示されないので罰金額も分かりません。
  2. 前科前歴 民事裁判で、前科前歴は過失相殺の決定証拠となる場合もあります。しかし、検察は付箋をして、謄写を禁じてます。裁判所が文書提出命令を出しても、応じません。過失責任は一過性の責任でなく全人格責任で、前科前歴の公開を禁じているのは不当です。
  3. 目撃者の住所 目撃者の住所も一部地検は付箋をつけ謄写を禁じています。被害者の損害回復の権利を侵害してもいいのでしょうか。被害者から証人申請の武器を取り上げ、被害者の立証を積極的に妨害している実情です。
  4. 裁判官の許可があること。

B不起訴事件における捜査情報公開の問題点 
 不起訴事件は平成12年3月から若干変更がありました。それまで不起訴事件について被害者は弁護士を通じ(弁護士法23条)かつ、実況見分調書しか見ることが出来ませんでした。
 平成12年3月から被害者も見られるようになり、かつ公開対象も広がり、実況見分調書以外の鑑定書や信号周期表等も見られるようになりました。
 しかし不起訴事件の捜査情報の原則はあくまで非公開です。公開対象には、被害者が知りたい捜査報告書や、加害者と目撃者の、警察と検察での供述調書は含まれません。アメリカでは公開が当然とされている捜査情報は日本では開示しないのが当然とされています。被害者が民事裁判を起こし、民事裁判官が、供述調書や捜査報告書について、文書提出命令を出しても検察庁は応じません。事実上検察は裁判所より優位なのです。実況見分調書以外の捜査情報の大部分を被害者は永久に見られない実情があります。
 平成12年以降も(平成18年まで)、法務省は不起訴事件での捜査情報開示の基準を緩和するような報道がなされていますが、実質は検察の裁量が大幅にあるものであり、捜査情報の開示対象は拡大されておりません。

不起訴事件の開示基準 
 捜査情報を公開する公開しないの区別のキーワードは法務省によれば「代替性」です。
警察での加害者や目撃者の調書は、「代替性がある」ので公開しないとしてます。代替性とは、後日の民事法廷での証言が得られることを意味します。信号周期表は代替性がないので開示されると言うわけです。鑑定書も代替性がないので開示されることになりました。

法務省の「代替性」というキーワードは正しいのか? 
 目撃者の供述調書があっても(民事法廷証言で)代替できることを理由に、供述調書は開示されません。民事裁判で法廷で目撃者の証言が必要となります。目撃者は、警察ですでに時間をかけて言ったのに、数年後同じ事を法廷で証言しなければならないのかと思うし、事故から3年後に目撃者が事故を正確に覚えているわけがありません。被害者は敗訴のリスクを負います。事故直後の調書にこそ事実があり、「代替性がある」とするのは虚偽です。
なお目撃者の氏名や住所を法務省は被害者に教えません。被害者の知る権利を妨害しているのです。
 加害者も事故直後は真摯な態度で真実を述べますが、時が経てばウソをつきます。民事裁判では加害者は平気でウソをつくようになります。同一人物の供述でも法廷供述が事故後の供述調書に「代替する」とは言えないのです。目撃者の調書を開示しないのは捜査の落ち度を隠すためと勘ぐられても仕方ありません。捜査情報を開示しないことによる弊害には、法務省や検察は鈍感です。加害者や目撃者供述は事故直後が大事です。「代替性がある」の言い訳は、被害者の声を排除し、捜査に邪魔が入るのが怖いのです。